こんにちは。本シェルジュの安藤準です。

今年の冬は非常に寒い日が続きますね。
寒いといえば、みなさん、

「今より1億倍早いコンピュータ」

と聞いてどう思いますか?
私は少しだけ背筋が凍る気分になったものです。

確かに、近年のコンピュータの大きく進化していますが、「半導体集積率は1.5年で2倍になる」という「ムーアの法則」も限界説が出ていることもあって、「1億倍」というと話の次元が変わります。
文字通り桁違いのスピードですので、コンピュータの利用方法や考え方が変わってしまうのです。
よりリアルタイムで分析・解析・判断できることが増えるでしょう。

そんな1億倍速いコンピュータが「量子コンピュータ」。まだまだ先だと思われていたこのコンピュータを、何と実現させてしまったカナダの会社が現れて世間をビックリさせたのです。私は、こりゃいかん。と急いで勉強しようと思ったのです。

ただし、画期的な技術が出ると、世間の必要以上な期待や夢物語、煽ったり、偏ったメディアに踊らされることになります。
最近、世間を騒がす「AI(人工知能)ブーム」がまさにこの状態でしょう。やはり技術的に実態を正しく抑えて、正しく理解しておきたいものです。

そこでお勧めしたいのが本書。

量子コンピュータの理論や現状を技術的な入門書として丁寧に書かれています。難しい話ではありますが、理論の「例え話」が秀逸で、「つまりこういうこと」と、非常に分かりやすく理解することができます。
私も初めは「0と1の両方を持つ状態ってどういうこと!?」など、理解に苦しみましたが、例えば「地形に水が流れるようなもの」と、様々な補足説明で理解を進めることができました。

特に今の量子コンピュータの仕組みの内容は1~3章ですので、こちらを読むだけでも十分でしょう。
4章以降は人工知能を含めた社会的な話ですので技術的ではありません。
興味のある方は流して読んではいかがでしょうか。

1)本日紹介する書籍

「量子コンピュータが人工知能を加速する」
日経BP (2016/12/9) 192ページ
西森 秀稔 (著),大関 真之 (著)
AmazonURL:http://www.amazon.co.jp/dp/4822251896

2)本書を選んだ理由    どんな人が読むべき?

量子コンピュータや人工知能に興味のある方。
また、詳しくある必要はありませんが、
コンピュータの基本原理やアルゴリズムに関心のある方がお勧めです。

3)付箋 ~本書からの内容抽出です

■量子コンピュータと人工知能の新時代がはじまったより

○実は、まだ先だと思われていた「量子コンピュータ」が突然完成し、
それどころか商用販売されていて、まったく別の分野だと思われていた
人工知能への応用が進められようとしているのである。

■第1章 「1億倍速い」コンピュータ より

○「1億倍高速」ということは、単純に計算すると、
従来のコンピュータで1億秒かかるものが量子コンピュータなら1秒で
終わるということになる。1億秒とは、約3年2カ月に相当する。

○長年、研究が続けられていた量子コンピュータが「量子ゲート方式」と呼ばれるのに対して、
ここ数年で突然商用化された量子コンピュータは「量子アニーリング方式」と呼ばれている。
(略)
本書の筆者の一人である西森秀稔は、この「量子アニーリング」の発案者である。
これまでさまざまなメディアに登場して、新しい量子コンピュータを動かしている
量子アニーリング方式の仕組みや意義について解説してきた。

○D‐Waveの量子コンピュータは、ある特定の目的でしか使えない。
その特定の目的とは、「組み合わせ最適化問題」を解くというものである。

 

○現状では、組み合わせ最適化問題そのものを解くには非常に時間がかかるために、
ある程度妥協をした解決方法を採用している。
そのため量子コンピュータによって、これまでよりも性能が高い、
より人間に近い判断を実現する人工知能を作ることが期待されているのである。

 

○さらに機械学習の手法として注目を集める「ディープラーニング(深層学習)」
を行う上で必要となる「サンプリング」にもD‐Waveの量子コンピュータが有用であることが、
最近急速に注目されるようになってきている。

■第2章 量子アニーリングマシンの誕生

○量子アニーリングを使うためには、従来型コンピュータによって量子アニーリングを
シミュレートすればよいと考えるのが自然な流れだ。ところが、量子アニーリングを
ハードウェア上で直接実現する装置を作るベンチャー企業が現れた。
それがカナダのD‐Waveである。

■第3章 最適化問題の解き方と人工知能への応用

○あえてたとえると、複雑な地形の土地で最も低い場所を探すときに、
降った雨が自然と低い盆地に集まることで答えがわかるようなものだ。

 

○1つの神経細胞に複数の神経細胞から信号が送られ、それぞれの信号を「重み付け」した上で、
次の細胞に届く。この神経細胞がつながっている様子は、
量子アニーリングにおいて量子ビットがつながっている様子に似ているだろう。
そして、ニューラルネットワークでは信号に重み付けが加味されるところも、
量子ビット間で相互作用が設定されているところに似ている。

■第6章 日本が世界をリードする日はくるか

○従来の半導体技術をベースにしている限り、「ムーアの法則」の終焉からは逃れられない。
「ポスト・ムーア」の方向性は、世界的にも極めて重要な論点になっている。

4)今日の気づき

今の量子コンピュータD-WAVEは汎用コンピュータではなく、
組み合わせ最適化問題を解くための専用コンピュータです。
汎用コンピュータとして1億倍速いわけではありませんので、
まだまだ利用は限定的です。
しかし、この専用用途は膨大な組み合わせ分析が必要なAI開発にとっては、
非常に商用価値の高いコンピュータになります。
今の量子コンピュータはどういう仕組みなのか。そして、
何に応用されるのか。正しく理解したいものです。

5)本書の目次

第1章 「1億倍速い」コンピュータ
第2章 量子アニーリングマシンの誕生
第3章 最適化問題の解き方と人工知能への応用
第4章 量子コンピュータがつくる未来
第5章 量子の不思議な世界を見る
第6章 日本が世界をリードする日はくるか

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「量子コンピュータが人工知能を加速する」
日経BP (2016/12/9) 192ページ
西森 秀稔 (著),大関 真之 (著)
AmazonURL:http://www.amazon.co.jp/dp/4822251896