こんにちは、本シェルジュの松林です。
今回は「転換」シリーズの一冊として、『ビジネスモデル・イノベーション-知を価値に転換する賢慮の戦略論』をご紹介します。

ビジネスモデルの本といえば、『ビジネスモデル・ジェネレーション』(アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール(著)、小山龍介(訳) 翔泳社)があります。
この本は、横長の判型と大胆な図解で戦略的思考を可視化し、日本でもベストセラーになりました。

本書『ビジネスモデル・イノベーション-知を価値に転換する賢慮の戦略論』では、『ビジネスモデル・ジェネレーション』の焼き直しも散見されますが、より日本の実情に根ざしつつ、イノベーションの実践について提言しており、同書とは別に読む価値があると感じました。
347ページとやや大部な本ですが、お正月にじっくり読んでみてはいかがですか?

<目次>
1)今日のオススメの一冊
2)付箋
3)今日の気づき
4)本書の目次

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〓 1)今日のオススメの一冊                   〓
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ビジネスモデル・イノベーション-知を価値に転換する賢慮の戦略論
野中郁次郎/徳岡晃一郎(編著)
東洋経済新報社(2012/8)347ページ

今回の登場人物紹介
■松林:しがらみに弱い二児の父。
■りか:学校の面談で「最近、目をギラギラさせて手を上げてます」と言われた小3生。
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りか:パパ、ちょっと顔が丸くなったでしょ。
松林:12月は忘年会が多くて。2キロぐらい太っちゃったよ。
りか:「ぼうねんかい」って、誘われたら全部出ないといけないの?楽しいとかお仕事になるとか、いいことがある「ぼうねんかい」を選べばいいのに。
松林:(正論だ…)「しがらみ」があって、そうもいかないのよ。
りか:「しがらみ」って、何?
松林:元々は、邪魔なもの、まとわりつくものっていう意味だよ。
りか:私が勉強していると「お姉ちゃん、まだ?早く遊ぼうよ」ってからんでくる、かなちゃん(注:2歳下の妹)みたいなもの?
松林:まあ、そんなところだね。(苦笑)
りか:ふーん。パパもたいへんなんだね。
松林:でも、いろんな「しがらみ」があることは受け容れて、工夫して乗り越えていこうとは思っているんだ。
りか:じゃあ、かなちゃんはどうすればいいのかな?
松林:何かがわかって、「勉強って楽しいかも」って感じるように、一緒に仕掛けてみようよ。そうすれば邪魔しなくなると思うよ。
りか:うん、わかった!

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〓 2)付箋 ~本書からの内容抽出です              〓
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■序章
日本企業の経営力喪失の原因の一つは、欧米流経営を無批判に模し、その構造化主義の罠にはまり、自らの立ち位置を見失ったことではないだろうか。
われわれは今、虚業から実業へ回帰すべきではないか。企業は自社の価値創造の仕組み、すなわちビジネスモデルとその根底にある価値観を徹底的に見直さなくてはならない。日本本来の組織的知識創造が活発に生きる仕組みを内包したビジネスモデルを再創造していく必要がある。(P16)

これまで二律背反してきた収益性と社会性に関するわれわれの暗黙の了解を覆し、両者の二律創生を共通感覚として組み込んだ新しい次元の競争で、われわれは世界の発展、未来の創造をめざすべきなのだ。
その中核にあって高次元のバランスを図るのが賢慮である。新しい価値観を軸にした「賢慮の戦略論」こそ、日本が今発信すべき新たな戦略概念なのだ。賢慮の戦略を具現化することはすなわち、本質的に真善美を追求する「知」を「価値」に変えるダイナミックプロセスを実践することであり、そのビジネスモデルがわれわれの提唱する知識創造理論を組み込んだ「事業創生モデル」なのである。(P20)

■第1章 事業創生モデルの提言
真の顧客は誰で、その顧客が抱える課題は何なのか。なぜ今までの仕組みが変わらなかったのか。なぜ変革できなかったのかなど、ダイナミズムの裏側で生起している本質的課題を見極めるための問いを突き詰め、それまでのビジネスモデルが内包する矛盾と、その解消を阻んでいたしがらみを読み切ることが重要になる。この矛盾としがらみを解消していくプロセスがBMI(ビジネスモデル・イノベーション)のポイントになる。(P32)

事業創生モデルとは新ビジネスモデルの発想プロセスや意図を重視したコンセプトである。その根底にあるのは、より良い社会の創造のために時代を切り拓き、コミットしたいという強い意志なのである。
すなわち、自分たちのめざす世界観を明確にすることが、事業創生モデルの根底にはあり、それを成し遂げる大きな関係性を構築していくこと、持続的で先を見た関係性を構築していくことが重要になる。(P58)

■第2章 ビジネスモデル・イノベーション競争
ビジネスモデルのイノベーション(革新)とは、顧客に対して新しい価値を提供するために、カギとなる資源やプロセスを新しく獲得したり組み替えたりし、新しい利益方程式を作り上げることである。新しい価値命題のない資源やプロセスの組み替えは、BMIではない。

顧客が求める新しい価値とは、モノそのものの機能を使うことだけではない。逆にいえば、従来と同じような機能を持つ製品やサービスであっても、それが利用者に対して新しい利用体験を提供したり、モノを利用して利用者自身が新しい価値を創造したりすることによって、新しい価値命題が生まれる。そのような関係性の変化や新しい文脈の構築は、「コトづくり」ということができるだろう。(P110)

■第3章 日産のグローバル・ビジネスモデル・イノベーション
見えないものを見えるようにするには、モノをモノとしてだけで捉えるのではなく、文脈を重視しなければなりません。たとえば、電気自動車を例にとれば、日産はただの電気自動車というモノを作りたかったのではなく、手頃な価格の電気自動車で大きな市場を創出しゼロ・エミッション社会を作ることを目的にしたのです。
このように文脈を設定することで行動は全く変わります。まず大きなマーケットで手頃な電気自動車を売るための前提条件は、その国や地域に十分なインフラがあることです。そうなると、そこでのサプライヤーや政府にも働きかける必要が出てくる。さらに……、などと考えが広がります。(P133)

トップはビジョンと戦略を提示し、ボトムアップで具体的な実行計画を提案する。両者が正しいやり方で統合される必要があります。この重要性は、日産の危機管理が見事に示していますので、説明しましょう。
ステップ1はアセス(状況評価)です。自分に都合良くではなく、どんなに複雑であっても、ありのままの状況を迅速に明確にする必要があります。
ステップ2はプランです。ここでのプランとは、短期的なものに限らず、危機収束後のものまで含みます。
ステップ3はエンパワーです。なぜなら危機は一人では乗り切れないからです。
ステップ4はトップの覚悟とコミットメントです。トップは、体を張って、状況に対処し結果を出すことを示さなければなりません。
最後に、一番大切なことはラーン(学ぶ)です。(P143)

■第6章 ビジネスモデルとデザイン思考
教科書的にビジネスモデルとは何かを論じることと、それを実際にデザインし、ビジネスへと具現化することとは全く違う。そこには試行錯誤の姿勢が不可欠だ。
ビジネスモデルは概念化と実現への絶え間ない繰り返し、すなわちプロトタイピングから生まれる。それは、「(1)準備・調査→(2)デザイン→(3)評価・モニタリング」といったステージに沿って行われる。(P239)

■第7章 ビジネスモデル・イノベーションを阻む「しがらみ」からの脱却
しがらみとは、企業にとって利益を生まない関係性であり、それを整理できない理由は、おおむね経済的に説明ができない事由によるものが多い。
しがらみに陥らないためには、自社の企業ビジョンと価値命題を明確にして、さらに強い信念でそれを推進する勇気を持つことである。(P260)

■第8章 事業創生モデルを推進するリーダーシップ
事業創生モデルのイノベーターシップの第一の条件は、一見矛盾する共通善を希求する高い志とビジネス嗅覚の二律共存、同時追求だ。(P287)

幅広い知を経験に溺れずに吸収し、そこからの柔軟な学習を通じて、真剣勝負で学ぼうとする貪欲な学習力と自己変革への謙虚な精神が事業創生モデルのイノベーターシップの真骨頂だ。(P291)

自らのコンセプトを明確にし、発信力を鍛え、影響力を行使していくスキルが重要になる。これが戦略コミュニケーションのスキルである。(P292)

イノベーターシップの発揮においては、自身の強さと周囲を盛り立て、ひきつける力が必要になる。BMIは決して簡単でも、一人でできるものでもないからだ。(P293)

■終章 賢慮のビジネスモデル・イノベーションに向けて
事業創生モデルにはさらなる発展段階がある。それは、世界の諸課題へと視線を跳ばし、よりよく共通善を達成していくために、個別ビジネスモデルを統合し、世界を巻き込むダイナミズムの中核になることだ。われわれ人類が乗り越えなければならない地球規模の課題へ挑戦するための知の結集である。(P327)

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〓 3)今日の気づき                       〓
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「失敗は成功のもと」とという諺がありますが、「成功は失敗のもと」という側面も無視できません。人の目には見たいものしか映らず、しかも見たいようにしか見ることができないため、部外者の目も取り入れて、裸の王様にならないようにしたいものです。

本書の中に「アセス」や「現実の直視」というワードが出てきますが、それを起点に、しがらみを捨ててイノベーションのサイクルを回していくための「仕掛け」を積極的に取り入れ、周りの人たちの協力を得て推進していくことが重要、と改めて感じます。

また、「本田宗一郎や松下幸之助はすごかった、でも昔とは時代が違う」とか「ジョブズは特別だから」とか言っていても、何も変わりません。卓越したリーダーが現れるのを待つのではなく、自分から「コトづくり」に向けて動き出そうと思います。

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〓 4)本書の目次                        〓
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序 章 賢慮の戦略論への転換
第1章 事業創生モデルの提言-知を価値に変える
第2章 ビジネスモデル・イノベーション競争-ビジネスモデルの多様な展開事例
第3章 日産のグローバル・ビジネスモデル・イノベーション-対談 カルロス・ゴーン×野中郁次郎
第4章 政府レベルのビジネスモデル・イノベーション-知識創造型国家をめざすシンガポール政府の挑戦
第5章 社会インフラ事業モデルの構造と戦略展開-ナレッジエンジニアリングの視点
第6章 ビジネスモデルとデザイン思考-ビジネスモデル・イノベーションの実践知
第7章 ビジネスモデル・ノイベーションを阻む「しがらみ」からの脱却-ハードルを超える実践アプローチ
第8章 事業創生モデルを推進するイノベーターシップ-知を価値に変える新たなリーダーシップ
終 章 賢慮のビジネスモデル・イノベーションへ向けて-統合型事業創生モデル

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ビジネスモデル・イノベーション-知を価値に転換する賢慮の戦略論
野中郁次郎/徳岡晃一郎(編著)
東洋経済新報社(2012/8)347ページ

【年末のご挨拶】
本年も「本シェルジュがオススメする今日の一冊」をご愛読いただき、メンバー一同、厚く御礼申し上げます。
新年は1月7日から配信予定です。来年もビジネス書を中心に、オススメ本を積極的にご紹介していきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
皆様、どうぞよいお年をお迎えください。