こんにちは、本シェルジュの松林です。
 先週末から「海の日」を含めて3連休だった方も多いかと思いますが、どのようにお過ごしでしたか?
 私の場合、小1の娘が「歯が痛い」と言い出し、“休日歯科診療所を探して、頬を腫らした娘をそこに連れて行く”という予想外のタスクが発生。いつか「そういうこともあったね」と一緒に笑って振り返れるようになるといいのですが(笑)。
 さて、今回は、いま注目されつつある「フューチャーセンター」の概説書をご紹介します。
 フューチャーセンターについて、ウィキペディアには「企業、政府、自治体などの組織が中長期的な課題の解決を目指し、様々な関係者を幅広く集め、対話を通じて新たなアイデアや問題の解決手段を見つけ出し、相互協力の下で実践するために設けられる施設」とあります。
 このフューチャーセンターは、1990年代にスウェーデンのエドビンソン教授により、「未来の知的資本を生み出す場」として考え出されたものです。日本でも、幅広いステークホルダー(関係者)が集まり、しがらみを超えて複雑な問題を解決する目的で、一部の大企業や自治体が取り入れています。
 「フューチャーセンター」という言葉は、何だか漠とした響きですが、昔からあった「異業種交流会」や「井戸端会議」、はてまた「オシャレな研修施設」とどう違うのでしょう?まずは1回体験するのがベターですが、本でざっくりと知って試してみるのもよいと思います。
<目次>
1)今日のオススメの一冊
2)付箋
3)今日の気づき
4)本書の目次
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〓 1)今日のオススメの一冊                   〓
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フューチャーセンターをつくろう
野村 恭彦(著)
プレジデント社 (2012/4) 197ページ

今回の登場人物紹介
■松林:Y子の夫。Y子に時々「家での会話が普通の家庭と違う」と突っ込まれる。
■Y子:専業主婦。ただいまPTAの役員として奮闘?中。
■りか:小3の娘。最近、お小遣い制に移行したばかり。
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一家の朝食時の会話。
松林:ねえ、「フューチャーセンター」って知ってる?
Y子:何それ。日本人の星出さんがソユーズに乗って行ったやつ?
松林:それは「国際宇宙ステーション」でしょ!
りか:パパと一緒にDVDで観た「バック・トゥ・ザ・フューチャー」って、面白かったね!
松林:うん、そうだね、パパはおじいちゃんの科学者が好きなんだ。…じゃなくて、「フューチャーセンター」は、いろんな人が集まって、お話をして、未来のことを一緒に考える場、なんだって。
Y子:じゃあ、いま私がやってるPTAの会合に、地域の人や地元の企業の人を呼んできたら、それになるわけ?
松林:ただ呼んできただけでは、まだ足りないものがあると思うよ。詳しくはこの本を読んでみて。はいっ。
Y子:う、うん…。(という反応の場合、大抵は読まないのであった)
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〓 2)付箋 ~本書からの内容抽出です              〓
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■P11より
 なぜ、企業とコミュニティの実践者たちはフューチャーセンターをつくりたいと考えるのでしょうか。なぜ、専用空間があったほうがいいのでしょうか。企業内であれば、プロジェクトを立ち上げて、会議室で対話をするのでは、何が足りないのでしょうか。コミュニティであれば、掲示板を立ち上げて、公民館やカフェで対話をするのでは、何が足りないのでしょうか。
 企業もコミュニティも、「仲間が集まって対話をしているだけにとどまらない、開かれた関係性を次々と生み出していく場」を必要としています。(中略)
 本書は、フューチャーセンターの思想と「場の主宰者としてのあり方」を理解し、その具体化のための「対話とイノベーションの方法論」を体得・実践していただくことを目的に書きました。
■P54より
 今、日本人の中に「ヒーローが現れてほしい。その人が何か変えてくれるはずだ」という依存的マインドが広がっているように思います。これは、フューチャーセンターの思想と相反する発想です。(中略)
 フューチャーセンターの目的は、未来を自分たちの力で創り出すことです。そのために、既存の枠組みを超えて、未来のステークホルダーとの関係性を築き、ともに発想し、行動していくのです。
■P88より
 フューチャーセンターに興味を持っている人に必ずといっていいほど聞かれるのが、「ファシリテーターを育てるのは難しいのではないか」「うちの会社にはいないのではないか」「ファシリテーターには特殊な才能が必要なのではないか」といった「難しさ」に関することです。(中略)
 フューチャーセンター・セッションでは、ファシリテーターは対話に「リズム」を与えます。二人で親密に話してもらったり、四人でテーブルを囲んでもらったり、全員で輪になって話したりします。付箋やホワイトボードに書いたり、モノをつくったり、シナリオを演じたりといった活動もとり入れます。理解と解釈、発散と収束、共感と統合を繰り返すことで、感情を呼び起こし、脳にも刺激を与えていきます。こういった方法論を多数使いこなせるようになってほしいのですが、最初は三つくらいの方法論を覚えておけば、とりあえずセッションを開くことはできるでしょう。
■P116より
 「フューチャーセンターには、専用空間は必要条件なのですか?」と、よく聞かれます(中略)
 ここでは、専用空間を持つかどうかということではなく、どんな場所であっても、うまく「場づくり」を行えば、「よい場」を作ることができるということをお話ししたいと思います。
 まず、「よい場」とは何か、というところから入りましょう。その場に来た人が真っ先に、「ここは違う」と感じられることです。(中略)
 次に大切なことは、その場に「意味性」が感じられることです。(中略)
 では、場所の選定に自由度がなく、会議室のような部屋を使わざるを得ない場面を考えてみましょう。
 まず、思いっきり、会議室の雰囲気をぶちこわしてください。そして、対話に合った空間をつくっていきます。
 大きな四角いテーブルは、たたんで廊下に出してしまいましょう。椅子だけにして、上下関係を感じさせないレイアウトで並べます。可能であれば、一つの円になるように椅子を並べます。
 次に、アイデアが生まれたら、それをどんどん可視化できる空間をつくりましょう。ホワイトボードやフリップチャートをできるだけ多く、持ち込みましょう。壁があったら、そこには模造紙をできるだけたくさん貼りましょう。(中略)セッションが始まったら、窓にも付箋をばんばん貼っていきましょう。
 可能であれば、お茶とお菓子、お花を用意しましょう。入り口には、「ウェルカム!」「ようこそ!」などの歓迎の言葉を大きく書いておきましょう。(中略)
 以上は一つの例ですが、よい場を作るのは、参加者全員の協同作業です。参加者のために「主体的参加の余白」をうまくつくることができれば、誰もが盛り上げる側に立つことができます。
■P152より
 フューチャーセンターの魅力は、そこが「未来のステークホルダー」と出会える場所であることです。(中略)
 未来のステークホルダーは誰かという質問に、論理的な答えはありません。誰を未来のステークホルダーに選ぶかは、あなたの意志なのです。問われるのは、想像力です。(中略)
 ある一定数以上の人たちが未来のステークホルダーとの関係をつなげると、組織全体の価値観に影響を与えます。ビジョンや戦略で人を動かすのは難しいことですが、新しい人とのつながりは、一瞬にして人の行動を変えるのです。
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〓 3)今日の気づき                       〓
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 著者はあえて、「フューチャーセンターとは、今まであったもので言えば○○みたいなものです」という言い方をしないようにしています。従来型の「市民参加討論会」的な仕組みと同視され、矮小化して理解されるのを避けていると受け取りました。
 開かれた場で、多様性に富む参加者の対話から本音と知恵を引き出し、未来思考で複雑な問題を解決するためのロードマップをデザインする、というフューチャーセンターの発想は、経済規模が縮小し閉塞感が高まる中、単純化の波に抗するための「あり方」として、自分も取り入れていきたいと思います。
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〓 4)本書の目次                        〓
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■序文
■はじめに
■第1章 フューチャーセンターとは何か
 フューチャーセンターの歴史
 フューチャーセンターへの世界的な取り組み
 企業変革とイノベーション
 「私が法律を変えます!」
 「儲かりますパラドックス」
■第2章 フューチャーセンターの思想
 賢慮型リーダーシップ
 フューチャーセンターの「6つの原則」
 フューチャーセンター・ディレクター
■第3章 フューチャーセンター・セッションを開く
 対話、未来思考、デザイン思考
 フューチャーセンター・セッションを開いてみよう
 ファシリテーターは「事務局力」を磨け!
 関係性を生む対話
 設計ガイドライン
■第4章 開かれた専用空間を創る
 高質な「対話の場」をササッとつくる
 外部に開かれていることの意味
 最高のおもてなしで迎える
 コミュニティを育む
■第5章 フューチャーセンターによる変革
 アクションを引き出す
 ネットワーク化するフューチャーセンター
 未来のステークホルダーと出会う
■森の座談会 フューチャーセンターがもっとよくわかる
■おわりに
■用語集
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フューチャーセンターをつくろう
野村 恭彦(著)
プレジデント社 (2012/4) 197ページ