こんにちは! 本シェルジュの松林です。
本シェルジュでは、先週から5回シリーズで、「再生」をテーマにお届けしています。
2週目の今回は、各地で赤字交通運輸企業の再生に取り組んでいる、小嶋光信氏の著書をご紹介します。
小嶋氏は三井銀行に勤めた後、地元・岡山県に戻り、義父が経営する「両備グループ」に入社しました。その後、自社にとどまらず、人から請われて三重、和歌山、広島などでも再建に携わっています。
中でも標題にもある、三毛猫の「たま駅長」(和歌山電鐵・貴志駅)のことは、皆さんもご存じかも知れません。
猫を駅長にするのは、一見「奇策」に見えます。しかし、本書を読むと、経費節減のための無人駅という制約条件をふまえ、理にかなった施策であったことがわかります。
よく政治家や学者が提示するような、建前や机上の空論ではなく、現場に立脚した現状と課題をドキュメンタリーとして伝える好著だと思いました。
都市部に暮らす方にも、規制緩和のもたらす現実を知ることができたり、地域活性化のヒントを得られたりする利点があります。ぜひ一度、書店でお手にとってみてください。
<目次>
1)今日のオススメの一冊
2)付箋
3)今日の気づき
4)本書の目次
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〓 1)今日のオススメの一冊                   〓
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日本一のローカル線をつくる~たま駅長に学ぶ公共交通再生~
小嶋光信・著
学芸出版社 (2012/2/15) 176ページ
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今回の登場人物紹介
■松林:地方都市・H市出身。大学進学後ずっと首都圏暮らし。H市には年に1~2回帰省。
■木村:松林の高校の同級生。大学卒業後は地元のH市役所に勤務。
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松林:やあ、久しぶり。木村君って、今は地域活性化担当の部署にいるんだっけ? 最近仕事はどう?
木村:苦労してるよ。ご多分に漏れずH市でも、次々に郊外に大型の商業施設ができて、中心市街地が空洞化しているんだ。
松林:この前、新幹線の駅からバスで実家へ行こうと思ったけど、あまりに本数が少なくてタクシーに乗ってしまったよ。バス会社も厳しいようだね。
木村:皆クルマで移動するから、子どもか年寄りしかバスには乗らない。高齢ドライバーの事故が多いし、将来を考えると公共交通機関は必要なんだけど…。
松林:最近、市の中心部にできた観光情報発信施設はどう?
木村:周りに駐車場が少なくて車で行きづらいから、厳しいね。地域の情報が見られるiPhoneアプリ(※)を配布するとか、いろいろやってはいるんだけど。ほら、これだよ。
松林:お、「元気な○○美人が時刻をお知らせ」っていいね!→ガックリ
(画面では「美人時計」よろしく、頬被りをした魚市場のお母さんが、たしかに元気に笑っているのであった…)
※会話に出てくるiPhoneアプリとは、これです。一度お試しください。↓
 http://hacchi.jp/ha/i8nohe/index.html
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〓 2)付箋 ~本書からの内容抽出です              〓
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■地域公共交通事業が衰退した理由(P17)
 ストや劣悪な運転とサービスをして顧客が減少し、業績が悪化すれば、補助金はかえって増え、業績が悪化したら運賃値上げをし、値上げで顧客が減少して業績が悪化すれば、また補助金が拡大するという誤った経営判断と労働運動を生み、負のサイクルに陥りました。
 公共事業に費用対効果の概念が持ち込まれ、儲からない路線やバス事業はやめればよいという理論で、路線廃止、事業縮小もしくは廃止が地方で加速し、ついに地方では老人や子供の移動手段がない地域が現出してしまいました。
■まちづくりは人々の意識開発から(P36)
 公共交通を活性化しようとしても、肝心要の「街」が元気にならなかったら、公共交通も元気にならないことに気が付きました。電車やバスの活性化が目的ではなく、街を元気にするツールだと遅ればせながら気がついたのです。
 マイカーでの通勤では、家と会社だけの往復だけで、けっして街を歩いてもらえないのです。(中略)マイカーから歩く習慣へと市民の意識改革をはからないと、いくら地方の公共交通を一時的に立て直しても元の黙阿弥です。まちづくりは人づくりと言いますし、人づくりに欠かせないのは、まず意識改革です。
■「知って、乗って、住んでもらう」戦略(P88)
 和歌山電鐵として再生する私の戦略は、「知ってもらう」「乗ってもらう」「住んでもらう」のホップ・ステップ・ジャンプです。まず住民の皆さんや和歌山県民に和歌山電鐵を知ってもらうことが第一です。知ってもらったら今度は乗ってもらい、観光開発と地域開発でお客様を増やします。そして沿線の知名度をあげて住宅開発をして定住によって人口を増やしていかなくては、地域公共交通を残せないのです。
■再建の看板となった三毛猫たま駅長の活躍(P92)
(注:ホームページで発表した、たま駅長の就任式の様子から)
 あるテレビのキャスターがちょっとピリッとした質問をしてくれました。「社長さん、猫の駅長がどんな駅長業務をするのでしょうか?」私は「来たな!と思いました。(中略)ここでただのマスコットだと言ってしまったら、たま駅長に失礼なので、「この貴志川線はお客様が少なくて廃線の憂き目にあい、再生することになったのです。したがって、たま駅長の仕事は“客招き”です」と招き猫の手を挙げた仕草をしたところ、カメラを担いでいるテレビ局のスタッフさんたちもどっと笑われました。その晩、インタビューが全国放送されて、あれよ、あれよと「客招き担当」駅長は、全国の人気者になりました。
■地域経営の時代(P167)
 私は多くの企業の再建をしてきました。よその再建も横目で見てきましたが、コストカットだけで進めた再建は、初めだけ黒字化しますが、どんどん売り上げが下がり、結果として再建は失敗に終わります。コストを下げたら、次は徹底的に売り上げを上げねば成功しないのです。行政も一緒です。出を制したら、今度は地域の付加価値が上がり、税収が増えるようにオペレーションしなくてはうまくいかない、すなわち、地域も経営の時代なのです。
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〓 3)今日の気づき                       〓
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 筆者は、両備グループの経営理念である「忠恕」(真心からの思いやり)を引いて、「企業の使命は社会のため、お客様のため、社員の幸せのために貢献すること。その使命を果たすために企業は利益を出して存続しなければならない」と述べています。
 これは、パッと見では極めて当然のことに見えますが、本当に社会の利益を目的として経営されているか、甚だ疑わしい企業も多々あるのが実態ではないでしょうか。
 報酬もなしに他地域の交通会社の再生に取り組む小嶋氏の姿には、私利私欲を嫌ったという「論語と算盤」の渋沢栄一氏に重なるものがありました。
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〓 4)本書の目次                        〓
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第1章 なぜ地域公共交通は衰退したのか
第2章 公共交通を再生させるという決意
第3章 歩いて楽しいまちづくり運動
第4章 目からウロコの韓国バス事情
第5章 規制緩和は公共交通を衰亡させる
第6章 「公設民営」の実証─津エアポートライン
第7章 たま駅長とユニークなアイデアで鉄道再生─和歌山電鐵
第8章 補助金の誘惑が経営不在・顧客不在を招く─中国バス
第9章 地域公共交通の存続をかけた政策改革
第10章 なぜリスクばかりで得のない再生を決意したか
第11章 地域公共交通の変革─エコ公共交通大国構想
第12章 日本の公共交通経営の未来
日本一のローカル線をつくる~たま駅長に学ぶ公共交通再生~
小嶋光信・著
学芸出版社 (2012/2/15) 176ページ
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