こんにちは。本シェルジュの川原茂樹です。
今日ご紹介するのは、素粒子の話。あなたは、ニュートリノという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
物質を構成している原子1つ1つの中の、原子核の中の、陽子や中性子の中のさらに小さな小さなツブが素粒子。今わかっている素粒子の中で一番小さいツブのニュートリノが、この本のテーマです。
そんなの知らないよ。興味ない、という方が殆どでしょう。
普段は考えることも、感じることもない、素粒子ですが、日本はこの素粒子を研究する素粒子物理学という分野で、世界のトップクラスなんだとか。
ビジネスの世界とは直接関係ないけど、世界のトップと言われると、ちょっと興味も出てきませんか?
最近、私は素粒子に興味を持ち、10冊以上読んでみましたが、まったく理解できず。諦めかけていたところで、この本に出合い「なんてわかりやすいんだ!」と感動しています。こんな凄い本は「絶対紹介しないといけない!」という想いで、ここに書いてます。
著者の多田将さんは1970年生まれの若い研究者。子どもの頃、時計を分解していたというエピソードには、とても親近感を感じます。ちなみに、私はテレビやラジオをひたすら分解していました。モノを触って、自分の目で確かめる。理屈と仕組みをつなげて、理解する。という性格が、わかりやすさの根源にあるのかもしれません。
もし、ニュートリノという言葉を聞いたことがあるとしたら、おそらく、2002年にノーベル物理学賞を受賞された小柴先生の影響が大きいでしょう。当時、大々的にニュースになり、ニュートリノという言葉も多く聞かれるようになりました。
小柴先生はテレビのインタビューで「ニュートリノは何の役に立つのでしょうか?」と質問され、「今後100年は、何の役にも立たない。」と答えていたのを見て大爆笑した私。しかし、電気が発見された当時、誰も電気の使い道など考えつかなかったそうです。今ではなくてはならない電気。ニュートリノも100年後には、人間にとってなくてはならない重要な要素になっているかもしれません。
科学に興味のない方には、難しい科学や技術の話をわかりやすく伝えるお手本として眺めると参考になりそうです。
では、最先端科学の世界へどうぞ!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)本日紹介する書籍
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
すごい実験 -高校生にもわかる素粒子物理の最前線-
多田将 (著)(東京イースト・プレス 2011/8/10)321ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4781606245
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)本書を選んだ理由 どんな人が読むべき?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・科学好きで、素粒子に興味があるけど、なんだかわからん!という方
・科学は苦手で、チンプンカンプンという方
・多額の税金つかって、何実験してんだ!?とお怒りの方
※おそらく、殆どの人が興味を持たないと思うのですが、あえて、全てのビジネスパーソンに向けて、教養を高める1冊として絶賛オススメします!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3)付箋 ~本書からの内容抽出です
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 自慢ではありませんが(高校生の頃、物理の本を読んで)最後まで読み通せた本は1冊もありませんでした。 (p13)
なぜ読破できなかったか? 理由が大人になってわかりました。
(その本を書いている)先生方は頭が良すぎたのです。
僕の強みは、多くの皆さんと同じように「物理の本を読んでもよくわからなかった」という偉い先生方はたぶんしていないであろう経験をしていることです。
ときどき、自分の職場である実験施設を見学に来られた方々をご案内する機会があるのですが、僕の解説が「わかりやすかった」というありがたいお言葉をいただくことがあります。
頭のいい先生方は数式を見ただけで、すっと理解できますが、僕にはできません。ひとつひとつ、具体的なイメージや例えに置き換えてみないと頭に入ってこない。僕は、自分自身が理解するために頭に描いたイメージを具体的に伝えているだけなのです。
■ 300キロメーターの巨大な「実験室」 (p19)
僕らがやっているニュートリノの実験を例にとって「素粒子物理学ってどんなものか?」という話をしていきたいと思います。
そもそも素粒子って何かというと、もっとも小さな物質です。小さすぎて目に見えません。
ぼくらがやっているのは、人工的にニュートリノという素粒子をつくって、それを集めてビーム状にして、遠くに設置した検出器までビームを飛ばすんです。
茨城県の東海村にあるJ-PARCで作ったニュートリノをビーム状にして発射します。目的地は、岐阜県の神岡町です。けっこう長い距離で、295キロあります。神岡に置いてある検出器スーパーカミオカンデで飛んできたビームをキャッチするわけです。
一般的に素粒子はその飛行中に性質が変わるんです。壊れたり、2つに分かれたり、違うものになったりします。その変化を調べて「この素粒子ってこんな性質を持っているんだ」ということを突き止めるのが、この実験の目的です。
■ 物理学の最先端は子供のようなやり方 (p34)
僕は小学生のころ、時計の中身がどうなっているのか知りたくて、家にあった時計を分解してみたんです。そのときはドライバーを使いました。
細胞だったら、顕微鏡が使えますし、分子だったら化学反応が使えます。
ところが、原子より先になると、道具を使ってスマートに分解できない。じゃあ、どうするか?
「素粒子」を取り出したかったら、ひとつ上の階層の「陽子」を思いっきり固い壁にぶつけて壊すんです。その砕けた中から素粒子を拾います。ものすごく原始的な子供みたいなやり方ですよね。
■ ちなみにガンダムのビームライフルと加速器は同じものです (p52)
加速器で作った粒子が飛んでいる状態のものをビームと呼んでますし、まさに加速器はビーム砲なんです。
J-PARKの加速器の出力パワーは1メガワット(MW)、世界最強です。ガンダムのビームライフルの出力は1.875メガワットだそうです。
そのように、徐々にガンダムの世界に追いつきつつあるんですが、ただ大きさだけはぜんぜんまだ追いついていません。あれはロボットが手に持てる程度の大きさですけど、こっちは長さが何キロもありますから。
建設費は1500億円。電気代は年間50億円くらいです!(p80)
■ 100年後の人々のために (p316)
僕が生きているあいだに、ニュートリノの利用方法はたぶん見つからないと思いますよ。でも、いつかニュートリノを利用できる日が来るかもしれない。そういうことなんですよね。
科学というのは常にそういう先輩の成し遂げたものを使って、次のものを作るんです。そのことを最後にお伝えしたいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
4)今日の気づき
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この本は、高校生に向けた4日間の授業を編集したものです。高校生からの素朴な疑問に答える形で、話が進んでいきます。なので、ガンダムとか、エバンゲリオンに出て来る兵器は、実現するのか?みたいな質問にも真剣に答えています。科学的見地を入れてきちんと高校生に向き合っている真摯な態度は見習いたいですね。
この本のわかりやすさは、どうやってつくられているのか?。具体的にイメージできるものに置き換えて、説明する。図やイラストをふんだんに使う。こうだから、こうなる、という因果関係を、1つずつ丁寧に説明する。途中を省略せず、全体がつながった話になっている。などなど、ビジネスの世界でも応用できる要素が満載です。
1つ私が誤解していたことも明らかになりました。陽子や中性子を構成するクオークという粒子は、素粒子がいくつか組み合わさってできている、と思っていましたが、クオーク自体が素粒子の一種だと気づきました。何冊も素粒子本を読んでいるのに、なんたることか!?そして、6種類あるクオークのどれ1つとして単体で観測できていない、という事実にビックリ。単体で観測できていないのに、6種類あると実証されている、不思議な世界です。
素粒子の研究に使う、巨大な装置の解説や、素粒子のつくり方、素粒子研究の歴史や発見の数々など。素粒子について一般人はこの1冊さえ読んでいれば、十分なんじゃないかと思えるほど。そして、どうしても一般人には理解できない難しいところは、「よくわからないけど、そういうことらしいです。」と、ここはわからなくても大丈夫だよ、と教えてくれます。
読んでいて飽きない。何度も読み返したくなる。読み物と辞書の2面性を持っています。充実した内容で、全てのページを紹介したい気分ですが、それはムリ。もちろんメインは、素粒子や実験の解説ですが、そこは私がピックアップして紹介するより、本を読んだ方がわかりやすいので、あえて紹介していません。ぜひこの本を手に取ってみてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5)本書の目次
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第1章 この世でもっとも大きく、もっとも精密な機械
第2章 人は、「小ささ」をどこまで想像できるか?
第3章 「知」が切り拓かれる瞬間
第4章 100年後の世界のための物理学
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
すごい実験 -高校生にもわかる素粒子物理の最前線-
多田将 (著)(東京イースト・プレス 2011/8/10)321ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4781606245
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コメントを残す