こんにちは。
「本シェルジュ」の廣瀬達也です。
猛暑の後、寒暖激しい日々が続いていたと思ったら冬が来た。そんなふうに季節の変わり目が曖昧という分かりにくい今年。そして、何かと分かりにくいのが、GAFAに匹敵する巨大ネット企業群BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)を擁する中国です(ちょっと強引…?)。都市部はキャッシュレスの最先端を疾走し、近年中国を訪れた人たちからは「その最先端ぶりとスピード感」の凄さと共に「もう日本は太刀打ちできない」的な話が聞こえてきます。さらには、米国との対立、香港とか新疆ウィグル自治区関連で世界の注目を浴びたり…。
ここ数年は所謂「インバウンド」な影響などもあり、国内でも中華圏の方々に接する機会が爆発的に増えてきました。仕事、旅行などで中華圏を直接訪れる機会は増えていますし、「中国」について語る本は多数あります。そしてその「中国」という二文字が指しているものは「中華人民共和国」、「中華民国」、「中華圏全体」、「漢民族」などなど、場面に応じて複数の解釈ができてしまうヤヤコシさ…。そんな中で、今回はちょっと違った切り口で中国(人)を語る本を紹介します。
著者の加藤さんは、「京劇」という中国伝統演劇を専門とした中国文学研究者です。
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1)本日紹介する書籍
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「貝と羊の中国人」
新潮新書 (2006/6/16) 256ページ
加藤 徹 (著)
AmazonURL:https://www.amazon.co.jp/dp/product/4106101696/
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2)どんな人が読むべき?
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・ 中国っていったいどんな国なのか?が気になる人。
・ 最近、中国の最先端ぶりに触れて「中国どうなってんの?」と感じている人。
・ 三国志などの中国の歴史モノが好きな人。
・ BATの今後の動向が気になる人。
・ 旅行、滞在などで中国経験豊富で、「けっこう中国分かってる」つもりだけど、シックリこない人。
・ 中国の多様性が気になっている人。
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3)付箋 ~本書からの内容抽出です
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■ 躍動する現代の中国の表層にばかり目を奪われていると、本質的なものを見落としてしまうのではないか。根本に立ち戻り、「中国人とは何ぞや」という疑問を大づかみで考えることが、今こそ必要なのではないか。大づかみとは、大雑把という意味ではない。歴史をさかのぼり、中国の深奥にまで踏み込み、あの国の本質を丸ごと大きく捉える。それが、ここでいう「大づかみ」の意味である。
■ 中国人(漢民族)の祖型は、いまから三千年前、「殷(いん)」と「周(しゅう)」という二つの民族集団(エスニックグループ)がぶつかりあってできた。
■ 殷人の本拠地は、豊かな東方の地だった。彼らは、目に見える財貨を重んじだ。また金属貨幣が存在しなかった当時、貨幣として使われていたのは、遠い海から運ばれた「子安貝」だった。有形の物財にかかわる漢字、寶(宝の旧字体)、財、費、貢、貨…などに「貝」が含まれるのは、殷人の気質の名残である。
■ 一方の周人の先祖は、中国西北部の遊牧民族と縁が深く、血も気質も、遊牧民族なところがあった。殷人が貝と縁が深かったように、周人は羊と縁が深かった。周の武王を助け、殷周革命の立役者となった周の太公望呂尚(りょしょう)の姓は「姜(きょう)」である。字形も字音も「羊」と通ずる。周人にとって羊こそが宝であった。
■ 現代中国人は、太古の二つの祖先から、ホンネとしての貝の文化と、タテマエとしての羊の文化の、両方を受け継いでいる。異質の性向が、どちらも彼らの血肉となっている。ここに中国人の強みがある。華僑の商才に象徴される中国人の現実主義が「貝」である。儒教や共産主義に象徴される中国人の熱烈なイデオロギー性は、「羊」である。
■ 中国文明は、いつの時代も、人口と食料・資源がギリギリのバランスを保っていた。政治の力で社会全体を上手にコントロールしないと、たちまち飢饉や戦争などの人災が発生していた。中国の為政者は膨大な人間を食わせねばならなかった。人海戦術によって黄河の洪水を治め、万里の長城を造る必要があった。人口が慢性的に過剰だった中国の文明は、必然的に「政治的文明」になった。
■ 経済活動さえ、中国では政治の下に置かれていた。すでに前二世紀、前漢の武帝は、塩と鉄を国家の専売にしたほか、「禁輸」「平準」など、国家が市場経済に介入して利益を上げるという政策を始めた。十三世紀、モンゴル帝国は、政府の「信用」によって、世界最初の不換紙幣を流通させた。
■ 東アジアの国際関係は、今日でも大人の社交クラブではない。たとえて言えば、やんちゃな幼稚園児たちが椅子にすわってそわそわしているような、幼稚な関係である。こんな未熟な状態で「東アジア共同体」を作ることは、難しいだろう。しかし、子供だからこそ、将来に期待がもてるともいえる。
■ もともと中国共産党は、秘密結社であった。彼らは、かつて地下組織だったころ、支配体制と戦った豊富な経験をもつ。裏返していうと、現在の中国共産党は、過去の自分たちの階級闘争体験をふまえて、民主化運動を芽のうちに摘み取るノウハウを知悉している。旧ソ連共産党と比べても、中国共産党はしたたかである。
■ 日本に永住権をもつ中国人でさえ、故郷の係累を「人質」に取られているため、政治の問題についてはホンネの意見を述べにくい状況にある。日本人が中国人とつきあうとき、中国の民主主義が未成熟であること、特に中国社会には言論「後」の自由がないことを、常に思いやるべきである。
■ 「貝と羊」でいえば、商品経済は「貝」である。庶民のホンネを反映している。もし、日本人が中国社会の表層だけを見て、感情的な「嫌中」に走るならば、心の中で日本に好意を寄せる中国人までも、「敵」に回してしまう可能性がある。
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4)今日の気づき
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私は1年間台湾(台北)に住んでいたことがあります。「中華圏の端っこを少し齧った」と言いたいところですが、そもそも「大陸」は別モノですし、「中華圏」はそれぞれの地域で「風合い」が違います。そんな私の「中国」に対してのスタンスは「分かった気になってはいけない」という「達観」という皮をかぶった「逃げ」でした。そうは言いつつ、日に日に日本人にとってプレゼンスを増す中国。ハイテク、観光、グルメなどの面だけでなく、改めてキチンと理解したい国です。もう少し踏み込めないものか。と感じていた私にとって「貝」「羊」という文字をタイトルに使った本書は魅力的でした。このタイトル以外にも「人口問題」とか「英雄の定義」の切り口は斬新です。2006年の本ながら、今また中国が注目を浴びる2019年的に見ても納得感が高くて読みやすいです。
特に、現代の中国を理解するための「補助線」(この表現がまた上手い)として、「昭和初期の日本社会を思いだすことが有効」という考え方は「なるほどねー」と感じました。当時の日本は陸軍、海軍、民間というバラバラの独立国からなっていた。都市と農村の生活格差が大きかった、工業技術は欧米に劣っていたので、ゼロ戦や戦艦大和など「一点豪華主義」で対応した・・などの事例を踏まえた説明が分かりやすかったので。
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5)本書の目次
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はじめに
第一章 貝の文化、羊の文化
第二章 流浪のノウハウ
第三章 中国人の頭の中
第四章 人口から見た中国史
第五章 ヒーローと社会階級
第六章 地政学から見た中国
第七章 黄帝と神武天皇
第八章 セカンドステージでの挑戦と失敗の重要性
終 章 中国社会の多面性
おわりに
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「貝と羊の中国人」
新潮新書 (2006/6/16) 256ページ
加藤 徹 (著)
AmazonURL:https://www.amazon.co.jp/dp/product/4106101696/
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