私はある日、自分のnote(ブログ)にこんな文章を書いたのです。
タイトルは「来ないでください。」
こんにちは。
「本シェルジュ」の廣瀬達也です。
ゴールデンウィーク明けましたね。
今回の紹介本は『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(平田はる香著)。
ゴールデンウィーク直前に出版された本です。
そして、冒頭に示したのはその本の中の一文。
著者が経営するのはパンと日用品のお店。テレビ取材に対応したことで、店舗への来客数が急増します。店舗は商品であるパンが足りなくなることを抑えるために、個数制限の営業をしました。すると、その個数制限について丁寧に謝りつつ説明しているスタッフを怒鳴りつけるお客様が現れたのです。その事態に対して、後日著者が書いたnoteです。
長野県東御(とうみ)市の御牧原台地(みまきはらだいち)。南に八ヶ岳、西に北アルプス、北に浅間山連山、東には奥秩父の山々。ぐるり360度に大パノラマが広がる場所。そこにあるパンと日用品のお店「わざわざ」。「わざわざ来て下さってありがというございます」という意味が込められた店名です。主婦が一人で始めた「わざわざ」は創業14年目。2017年に法人化し、今では3億円の売上がある企業に成長しています。
前回の私の投稿に続き、今回もキラリとした本(「マイノリティデザイン」「認知症の歩き方」など)を世に出し、存在感を示している兵庫県明石市に本社を置く「ライツ社」さんから出された本です。
1)本日紹介する書籍
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『山の上のパン屋に人が集まるわけ』
ライツ社(2023/4/28) 244ページ
平田 はる香
AmazonURL:https://www.amazon.co.jp/dp/4909044442
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2)本書を選んだ理由 どんな人が読むべき?
・ お金の価値に納得したい人
・ 生きている中で違和感を感じることがある人
・ 自分の中に「あきらめない気持」ちを育てたい人
・ 自分の心と体を大切にしながら事業を進めたい人
3)付箋 ~本書からの内容抽出です
家庭科の授業で、「家庭の環境調査」という課題が出ました。父の母の職業について書き出す欄があったのですが、まずうちには母がいませんし、父の職業についてもよくわかりません。「どうしてこんなプライベートなことを発表しなくてはいけないのか」と抗議したものの、聞き入れてもらうことはできませんでした。
いろんな人からの「こうしたらいいよ」というアドバイスの通りに動けば、いずれ自分の心が壊れてしまうだろうことを感じ取っていました。だから、どうしても言うことを聞けなかった。
ずっと「やりたい」ことを探していたけれど、「できる」ことの組み合わせで何かできるかもしれない。そう思ったこのときが、今思えば一番の転機だったと思います。
こんな風景はこれまで見たことがなかったけれど、それはただ、来る理由がないから見ることができなかったんだと思いました。もしもここに「来る理由」があったら、この風景を見ることができる。いろんな人がこの場所に来る理由をつくるために、ここでお店を開こうと思ったのです。
地の利を捨てて、地方のアクセスの悪い場所を選んだことで、都市と地方のヒエラルキーから解放されました。
働き方も、お金のもらい方も使い方も、人間関係も、私自身が納得できる「等価交換」の形に近づけていく、そんな日々が始まりました。
自分の健康が壊れてしまったら、おいしいパンなんて作れない。自分の心身が前提にあってこそ、お客様の幸せを追求できる。それでいなくなる方やわかってくれないお客様に対しては、「仕方ない」「合わなかっただけ」と考えることにしました。
私は、ただ商品が売れたらそれでいいとは考えていません。どういうお客様に買ってほしいのか。どんなふうに買ってほしいのか。お店作りには「誰に売りたいか」を考えることも必要だと思っています。
どんな業界でも、お店がお客様に「NO」と言えることが、ふつうになればいいなと思います。
人としてのプライベートな気持ちのつながりはなくても、出されるものがおいしいから、サービスや空間が好きだからまた来る。その「等価交換」が心地いいと感じます。
「わざわざ」はまず、働き方に関しては「世の中の求めるふつう」ではなく、「自分たちが健康的でいられる状態」を実現し、お店のあり方については「世の中の求めるふつう」を実現できる状態を目指すことに決めました。
それでも売上が伸びたのは、ひたすら自分の違和感を明確にしていって、「じゃあどうすればいいのか」を考え、1つずつ実行して運営していったから。それが「わざわざ」が成長できた理由なのだと思います。
もの・かね・ひと、その間にあるものが常に対等であるということが、とても大切だと私は思うのです。
自分を介して人に渡す、パスをする。「誰にパスするか」を考え抜いたお金には、とても大事な意味が込められていると思います。
一方で、ただコツコツとやり続けて待っているのではいけないとも思っています。社会の角度を1ミリでも変えたいと思うなら、影響力も少しは持たなくてはなりません。
4)今日の気づき
「パン屋さんの話」という先入観で、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』の「タルマーリー」さんをイメージしながら読み始めました。目の前に現れる障害をぐいぐいと克服していく姿はマザーハウズ代表・山口絵里子さんの『裸でも生きる』も少し彷彿させます。しかし、どちらもちょっと違いました。
この本に描かれているのは、パン屋として、そして、企業としての商品開発力や事業運営方法というよりも「気持ち」。著者の「まっすぐな気持ち」です。その気持ちを描く一文一文はシンプルです。しかし、そのシンプルな文の中に強いエネルギーが込められている。そんな印象でした。
著者は「等価交換」というワードを何度か使います。「低価格化」「大量消費」ということが広く浸透している現在の社会情勢の中で、大事なことを思い出させてくれるワードと感じました。
「わざわざ」さんの店舗、訪れてみたいです。
5)本書の目次
章立て代表的な小見出しの紹介です。
- はじめに
- 「ふつう」が育まれないまま、大人になった
- 3日間で逃げ出した就職先
- 東京でやっと見つけた「やりたいこと」
- 「等価交換」じゃないことが、どうしても無理
- 世の中の「ふつう」を試してみよう
- 「やりたいことを探す」のをやめることにした
- 山の上に店を作った理由
- 偏りもヒエラルキーもない場所
- 健康的な働き方とは
- どこで売る?(どこでどうお金を稼ぐのか)
- 何を売る?(何をお金に変えるのか)
- 誰に売る?(誰からお金をもらうのか)
- 「たかがパン屋」がいい
- 自分たちの「ふつう」を守る
- ものを作るときの5つのルール
- 「私」から「会社」へ
- はじめての赤字、その原因
- 「わざわざ」とは何か、考えた
- もの かね ひと 間にあるのは何ですか
- 私たちは、フラットか
- もっとも正しい「かね」のあり方
- 全てはその先に「健やかな社会」があるか
- これからの「わざわざ」が提供するもの
- 「よき」はそれぞれ
- おわりに
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『山の上のパン屋に人が集まるわけ』ライツ社(2023/4/28) 244ページ
平田 はる香AmazonURL:https://www.amazon.co.jp/dp/4909044442
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