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□■本シェルジュがオススメする今日の一冊■□ Vol.336 2016年11月14日
~本シェルジュ達から、頑張るビジネスパーソンへの贈り物~
本シェルジュ=本のコンシェルジュのことです。
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こんにちは。本シェルジュの吉田です。
早くも冬の訪れを感じさせますが、今年の夏を振り替えるとリオ五輪がありました。
寝不足になりながら各競技を熱心に観戦しましたが、シンクロナイズドスイミングは
あの名物コーチが復帰し見事にメダル獲得を果たしました。そう、井村雅代氏です。
厳しい練習で知られ、日本だけでなく、中国、イギリスでも指導実績を有した名コー
チです。日本のお家芸復活の裏にある彼女のマネジメントとは?ビジネスマンも興味
あるところで、この一冊を取り上げました。

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 1)本日紹介する書籍
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シンクロの鬼とよばれて
新潮文庫(2015/10/28 ) 301ページ
井村雅代(著) 松井久子
AmazonURL:http://www.amazon.co.jp/dp/4101202168

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 2)本書を選んだ理由    どんな人が読むべき?
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シンクロ日本代表コーチとして、実績を残しながら、追われるように代表を去り、中
国へ。中国でもメダル獲得という実績を残し、一方でその間に低迷期に入った日本シ
ンクロを2014年にコーチに復帰し見事メダル獲得に導く。日本のシンクロは彼女なく
して成り立たないのは明らかです。一方で、その激しく厳しい練習もよく取り上げら
れています(本のタイトルもシンクロの鬼ですから)。ビジネス界では、厳しすぎる
指導はパワハラとされる昨今です。
彼女の指導はしごきともとられる前時代的な指導にも素人目には映りますが、いった
い、彼女は何を考え、どのように選手に接し、厳しい指導をしてきたのか。この一冊
を通じて、井村雅代氏を知ってみたくなり取り上げました。マネジメント層のビジネ
スマンも時には優しいだけでなく、井村流マネジメントを見習うべきなのか??

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 3)付箋 ~本書からの内容抽出です
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■P.74より
練習では徹底的に追い込むやり方をしても、こころの面ではここぞという時に「救い」
の手を差し伸べる。だからこそ、選手たちは、どんなにきつい練習にも耐え、井村を
信頼し、互いの絆を深めあうことができたのだ。そして、彼女は「選手を追い詰める
ときにこそ、気をつけることがある」と言う。
・・自分の指導に酔ってしまっている人もコーチ失格。選手たちの心を冷静に観察し
ながら、自分の言葉や態度を一人一人の心にどれだけ刻む込むことができるのか?そ
の見極めができないといけない。それが私たちに求められている「コーチの力」なん
です。
■P.276より
たった10年の間(海外での指導をしていた間)に日本の社会が、完全に変わっていた。
選手としての心構えから、心意気から、全部おかしくなっていました。
・・・たとえば、昔の選手は「自分は失敗できない」という責任が生まれますよね。
偉そうに言った後に失敗できないと思うから、無理して頑張る。そういうことが完全
になくなってしまいました。それでは世界との争いでメダルを取ることなんかできま
せん。ホンマもんのアスリートを育てにくい時代です。
■P187
精神的に強くなるとか、自分に負けないとか、諦めないといったことを教える。つま
り、自分は子供たちの心の教育をしているんだと思っているんですね。だから、シン
クロが教育より上に行くことはない。シンクロはあくまで手段であって自分は教育者
なんだと思ってます。
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 4)今日の気づき
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日本のシンクロ界で実績を残しながら「裏切り者」いわれ、中国代表のコーチに就任。
そしてそこでも実績を残す。何を考え、海外でこれまでの井村流をどうアレンジして臨
んだのかを知ることができます。
しかもその数年後に弱体化した日本のシンクロをまた復活に導きます。厳しいだけなら
だれでもできますが、彼女は実績に結び付けます。柔道界で一時、厳しい指導が問題に
なりましたが、何が違うのでしょう?
指導面では賛否両面ありながら、今の日本のスポーツ界でこれほど実績を残し続ける指
導者はいないでしょう。そのマネジメント術をこの本を通じて少しでも見習うことがで
きたらと思いました。
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 5)本書の目次
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第一章 「裏切り者」と呼ばれて
私は長くやりすぎた/中国からのオファーの内容/日本のために決めた中国行き/突然
はじまったバッシング/辞表を出した会議/無駄なことはすぐに忘れる
第二章 新天地
ただ一人で北京へ/驚くべき「選手村」の環境/筋肉も持久力もなかった中国選手/選
手が潰れる、と言われた練習/国よりも省が大事/激怒したある事件/選手は指導者を
試す/目標から練習計画を立てる/中国指導部との関係/五輪目前に最大のピンチ/選
手の追い込み方と救い方
第三章 メダルを取るために来た
周囲を慌てさせた選手選び/失敗をどう乗り越えるか/プレッシャーの対処法/嬉しさ
の後の空しさ
第四章 私は、コーチがしたいんです
消えていなかったしこり/水泳連盟の信じ難きオファー/埋まらなかった溝/「年齢オ
ーバー」と言われて
第五章 勝つための強いこだわり
記録は残さない/小谷実可子との確執と和解/課題の表現力を「武器」にする/作品の
つくり方/指導者として一番つらいこと/オーラは元気な人についてくる/栄光の前の
関門/ショックだった奥野の引退/選手の死に水を取る
第六章 誰かの役に立つ人でありたい
才能がなかった選手時代/私を変えた先生の言葉/毎日がバトルの教師時代/子供の心
を開かせるには/教育現場の体罰、自殺/橋下府知事に感じた違和感/コーチよりも選
手の力が上のとき/予期せぬリストラ/シンクロは教育の手段/子供を見れば親が見える
第七章 再び、中国へ
「世界第二位」の活気/駄目になるチームの法則/銅メダルでは許されない/主張が激
しい選手との対決/「心の才能」がある新デュエット/人生最大の恐ろしい会議/オリ
ンピックで勝つための戦略/銅メダルで沸いてきた怒り/はじめて「チーム」になった
/「私の選手たち」への手紙

第八章 選手を育てる、コーチを育てる
中国に行って上がったコーチ力/外から見た日本/私が使わない二つの言葉/すぐれた
男性は女性を排除しない/日本シンクロが直面している問題/私がコーチを続ける理由
/スポーツは結果に価値がある/すぐれたコーチを育てたい/親子で成長するシンクロ
合宿
おわりに
文庫版あとがきにかえて 八年ぶりのメダル

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