こんにちは、「本シェルジュ」の大橋功です。
今回が初登場です。よろしくお願いします!


さて近年、年中国の対外活動の動向に関するニュースが、頻繁にメディアで取り上げられています。
香港や台湾への圧力、尖閣近海や南シナ海域での活動、印中国境での紛争などなど。

中国はなぜこのように世界各国と軋轢を起こすのか? 
彼らを駆り立てる行動原理は何なのか? 
そうした疑問への手掛かりになるのがこの本です。

対外的に強硬にふるまう原因としてよく言われるのが、中国共産党による世界覇権への野心ですが、背景はそう単純ではないように思います。

国を動かすのは多数の国民であり、共産党指導部だけではありません。長年の歴史ではぐくまれた、中国社会固有の物の考え方や行動パターンにも目を向ける必要がありそうです。

この本は、中国の対外政策を、伝統的な家族制度、社会観、政治力学などの国内要因から分析するのが特徴。久々に、読んで頭がすっきりする本でした。

著者の益尾千佐子氏は九州大学で教鞭をとる中国論の専門家。新書なので買い求めやすいのも魅力です。

1.本日紹介する書籍

「中国の行動原理」 
中央公論新社(2019/11/15)306ページ
益尾千佐子(著)

2.どんな人が読むべき? 

   
中国とはどういう国か、物事がどのように決まるのかを知りたい人

3.付箋
~本書からの内容抽出です

 
『中国の世界観は、基本的に現状への恐怖で満ち溢れている。平和で安定した状態は現在ではなく、未来に達成される。』

p.16

『これを具体的な国際関係に落とし込むならば、米国が中国の近隣国との同盟関係を解消していきながら手を引き、日本が弱体化し、ロシアやインドが台頭しないままでいるのが中国にとっての理想である。・・・中国がめざす「平和」は、自国による域内覇権の確立という形を志向することになる。』

p.58

『中国が該当する外婚制共同体家族制では、父親は家族に対して強い権威を持つ。他方、相続では男兄弟は平等な扱いを受け、1人の息子が家全体の財産を受け継ぐことはない。息子たちは結婚後も両親と同居し、家族は父の強い権威の下に、横に大きく広がる共同体となる。』

p.64

『中国の社会秩序の特徴をイメージしやすいようにまとめてみよう。第一に、権威が最高指導者に一点集中する点である。・・・第二に、中国では組織内分業についてボスが独断で決める。・・・第三に、中国では同レベルの部署同士は上の支持がない限り連絡をとらず、助け合わない。・・・第四の点はおそらくもっとも重要である。・・中国ではトップの寿命や時々の考え方によって波が生じる。トップの下にいる人々は、「今がどういう潮目の時期か」を常に熱心に読み取ろうとし、どんなことをしてでも潮流に乗ろうとする』。

p.75~79

『(中国の社会は)党中央という家父長の下に、党と軍と国という息子たちが並列する構図となる。・・・息子たちは家父長が下した大雑把な指令に基づき、親に認めてもらえるよう努力しながら、他方で時々の「潮流」を読みながら、与えられた各分野の守備についている。彼らは原則的に互いの仕事に口出ししないが、あまり協力もしない。』

p.99

『中国の対外行動を捉えるときに理解しやすいのは、中国が外婚制共同体家族に根付いた社会秩序を持ち、家父長、つまり最高指導者の国内凝集力をバロメータとして、一定のサイクルで変化する社会だ、と考えていく方法である。』

p.269

4.今日の気づき


中国の対外行動を読み解くうえでヒントになる点が3つありました。

まず伝統的な家族制度の影響です。

中国の社会では家父長が絶対的な権力を持ち、子供たちは与えられた持ち場で、家父長に気に入られようと忠誠を尽くします。そして子供同士は基本的に平等で、お互いに干渉せず、子供に指示できるのは家父長だけ。家父長を党指導部、子供たちを、党、軍、政府(行政)と読み替えれば、中国の国内政治体制と重なります。

第2は「中華帝国」という輝かしい栄光の地位を、過去に列強から侵略されて失ったという喪失感、被害者意識が強く残っていることです。

それが、内政不干渉は絶対に許さないマインドセットにつながっているように思います。

そして第3が、強いものが支配するというリアリズム的な考え方です。

生活が安定して豊かである限り、国民も党指導部の方針には逆らわないので、その結果、国家の動きが特定の方向にふれがちなのも分かる気がします。

今後中国がどう動くかを見極めるのは、われわれ日本にとっても重要なテーマ。

中国という国家の行動原理をわかりやすく体系的に教えてくれるのが、この本の値打ちです。
色々と考えさせられる本でした。

 5.本書の目次


序章  国内力学が決める対外行動 
第1章 現代中国の世界観 
  1.中華帝国の喪失感 
  2.強烈なリアリズム 
  3.中国共産党の組織慣習   
  4.彼らが目指す平和とは 
第2章 中国人を規定する伝統的家族観
  1.権威集中の社会組織 
  2.暗黙の社会秩序とは 
  3.構造的な脆弱性
  4.中国共産党の場合
第3章 対外関係の波動 
  1.朝鮮戦争への義勇軍派遣
  2.党と国家の二重外交 
  3.「極左外交」の展開 
  4.国内政治が生んだ混乱
第4章 政経分離というキメラ 
  1.統治の鄧小平方式 
  2.改革開放以降の国内競争              
  3.中国社会の暗黙の理解
  4.江沢民・胡錦涛・習近平 
第5章 先走る地方政府 ―広西チワン族自治区の21世紀
  1.低迷自治区の活路 
  2.独自の対外経済活動 
  3.広西政府の経済発展と政治的飛躍
  4.「一帯一路」のモデルへ
第6章 海洋問題はなぜ噴出したか             
  1.国家海洋局の意欲 
  2.反日ナショナリズムの追い風 
  3.国家戦略の中心から解体へ 
  4.国内政治から見た海洋問題
終章  習近平とその後の中国