こんにちは、「本シェルジュ」の大橋功です。

会社や組織の中にいると、「どうしてこんな会議があるのだろう?」とか、「目的は分かるけど、ここまでに細かく報告する必要はあるのか」などと感じることはありませんか? 

そして無意味だとわかっていても、なかなかなくならないのがこの種の仕事です。多少の時間の無駄ですめばよいのですが、公立小中高校の教員やキャリア官僚などの職種では、やるべき業務が多すぎるという理由で志願者が減り、人材の質が心配されているといいます。

「デジタル化や働き方改革を通じて、生産性向上を実現しよう!」といった目標を掲げる企業も多い中で、無意味、不要で時には苦痛な仕事(ブルシット・ジョブ)が減らないのはなぜなのか? こんな漠然とした疑問に対し、ネオリベラリズム(新自由主義)と官僚制をキーワードに、その発生と増殖の仕組みを解説してくれるのがこの本です。

世の中に必要な仕事に携わる「エッセンシャル・ワーカー」が金銭的に報われない理由も、実はブルシット・ジョブがはびこるメカニズムとつながっているという主張には考えさせられます。

1)本日紹介する書籍

「ブルシット・ジョブの謎」
    クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか 

講談社(2021/12/20)254ページ
酒井隆史(著)
Amazon – ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか (講談社現代新書) | 酒井 隆史 |本 | 通販

2)どんな人が読むべき?

  • 企業や団体で働くすべてのビジネスパーソン
  • 「ブルシット・ジョブ」の原書(デヴィッド・グレーバー著)のエッセンスを理解したい人

3)付箋 

BSJ(=ブルシット・ジョブ)とは、被用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として被雇用者は、そうではないととりつくろわなければならないと感じている。

P.20

(ネオリベラリズムに基づく)競争構造を導入するためには、すべてを比較対照させねばなりません。したがって、数量化しなければなりません。これがネオリベラリズム特有の会計文化、格付け機関の増殖、格付け文化の蔓延と結びついています。あとは私たちがよく知る風景です。業績、学内業務、社会貢献など。すべてをポイント化するためのペーパーワークです。

P.157

要するに、ネオリベラリズムは官僚制と背反するどころか、むしろ官僚制化を招くものであって、その現象は海外も日本も変わるところがないのです。

P.158

労働そのものが至上の価値であるならば、その価値観でもって働いている人間にとっては、それ以上の価値を持った仕事(=有用な仕事:筆者注)に就いている人間は存在そのものが妬ましい対象である。そしてその妬みを促進するのがBSJについていることにひそむ精神的暴力である。

P.192

4)今日の気づき

この本を読んでブルシット・ジョブの問題がやっかいだなと感じたのは、そのような仕事についた本人が苦しい思いをするだけではなく、人の役に立つ仕事をしているエッセンシャル・ワーカーへの「妬み」の感情を生み、その待遇改善の足も引っ張りかねないという点です。

建設・土木、配送、ごみ処理、看護師、介護士、警察等々、私たちの生活を支えている人たちにも影響が及ぶ点で、決して他人事の問題ではないと思いました。

「仕事は苦しいのが当たり前」という労働観が原因の根底にあるので、解決は簡単ではなさそうですが、「したくもない仕事を苦しい思いをしてまでやっている」人の数を少しでも減らせないか、考えるきっかけにしたいですね。

5)本書の目次

第0講 「クソどうでもいい仕事」の発見

第1講 ブルシット・ジョブの宇宙

第2講 ブルシット・ジョブってなんだろう?

第3講 ブルシット・ジョブはなぜ苦しいのか?

第4講 資本主義と「仕事のための仕事」

第5講 ネオリベラリズムと官僚制

第6講 ブルシット・ジョブが増殖する理由

第7講 「エッセンシャル・ワークの逆説」について

第8講 ブルシット・ジョブとベーシック・インカム

おわりに わたしたちには「想像力」がある