こんにちは、本シェルジュの酒巻秀宜です。
よろしくお願いいたします。

今回は、トップクラスのロシア語同時通訳者にして、小説やエッセイ、はてはテレビ番組のコメンテーターとしても活躍された米原万里さんの、同時通訳・翻訳論に関する著作です。

米原さんは2006年に逝去されており、この著作も1997年発行なのでもう
30年近くも前の本です。しかし、当時すでに機械通訳によって仕事が通訳の仕事が奪われるのか?というトピックもあり、今でいえば生成AIによって
仕事の在り方が大きく変わりつつある現代にも通じることが満載です。


• 1)本⽇紹介する書籍
本日ご紹介するのは 

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か 

です。

  • 著者:米原万里
  • 出版社 ‏ : ‎ 新潮社
  • 発売日 ‏ : ‎ 1997/12/24

どんな⼈が読むべき︖
ビジネスのヒントを得たい方
混迷の時代を生き抜く知恵を得たい方

• 2)本書を選んだ理由

ともかくおもしろい!
当時通訳の世界は、翻訳と違い、瞬発力が要求されます。
適当な訳語が思い浮かばないからといって、話者も聴衆も時間も待ってくれません。そのために、同時通訳中は心拍数が160を記録し続け、最大でも10分間しか同時通訳を続けられないほどハード!
そんな極限状態のなかだからこその抱腹絶倒エピソードがこれでもかと
披露されますが、一方で、きっちりと理論立てされた「通訳論」から
「仕事論」まで昇華されており、ビジネスパーソン必読の書となっています。

• 3)付箋本書からの内容抽出です

P78~79
通訳能力とは、常に新しい分野を勉強していく意思と能力でもある。

(文科系出身者がなぜ高度な専門技術用語などが飛び交う通訳ができるのかについて)
どんな複雑な機器や装置であれ、所詮人間の作ったものである。その人間に対し飽くなき探求心を持つ者にとって、機械だけがどうして無縁であり得よう。
(中略)
一言で言うならば、細分化された実用的知識は、応用範囲が狭い。一見無用と思われる知識のほうが思わぬところで役に立つ。

• 4)今⽇の気づき

タイトルにある「不実な美女」とは、
話者が発した原文には忠実ではないがその意図するところを良く伝える通訳のこと。
「貞淑な醜女(ブス)」とはその逆で
話者が発した原文には忠実だがその意図するところはあまり伝わらない通訳
のことです。

私は中小企業診断士として、経営者と現場社員との通訳をする、
つまり、経営者の想いを現場に対して代弁し、決めたことが実行されるようにすることが重要な仕事であると認識しています。
その際に必要なのは「不実な美女」の通訳です。経営者の想いが現場に
なかなか伝わらない「現場」を目の当たりにします。その理由の一つは、経営者と社員は視座が違うからです。

話す言語が違い、背景となる文化や宗教も異なる者同士のコミュニケーションを媒介する通訳者に求められる知識、知恵、見識はそれこそ幅広い。
すぐに役立つ小手先の知識だけでは到底立ち行かない職業です。
中小企業診断士も、業種も歴史も集う人々も多種多様な中小企業を相手に仕事をします。にわかの知識では太刀打ちできない。
両者相通じるところがあるなあ、と感心しきりで読了しました。

• 5)本書の⽬次
プロローグ 通訳=売春婦論の顛末
第1章 通訳翻訳は同じ穴の狢か―通訳と翻訳に共通する三大特徴
第2章 狸と狢以上の違い―通訳と翻訳の間に横たわる巨大な溝
第3章 不実な美女か貞淑な醜女か
第4章 初めに文脈ありき
第5章 コミュニケーションという名の神に仕えて
エピローグ 頂上のない登山