本シェルジュの平鹿です。

近年、「社会実装」という言葉をよく聞きませんか。「AIの社会実装はどこまで進んでいるか」といった使い方ですね。オピニオンリーダーが使うとちょっと高尚な響きがします。

この言葉、実は日本オリジナルなのだそうです。すべてのテクノロジーには導入期と展開期があります。本書では「社会実装」を社会の多くの人がそのテクノロジーを利用する段階とします。対象はデジタル技術です。

この段階になると、テクノロジーは規制領域に踏み込み、また、自ら規制の対象となり、国際政治に巻き込まれ、業界再編を引き起こすようになります。著者は、多数の「社会実装」の事例調査を通じて、その成功者たちの共通点を見出します。それは、彼らが実装しようとしたのはテクノロジーではなく、テクノロジーが生み出す新しい社会(=未来)だということでした。これが書名の由来です。

本書は、テクノロジー論や未来を予見したりするものではありません。社会実装を進めていく方法論を丁寧にそして体系立てて解説してくれます。

豊富な成功事例、そして失敗事例を通じて多くの気づきを得ることができます。社会実装が決して得意ではない日本が今後どうすべきかという示唆もちりばめられています。
これからのデジタル社会を生きていく上での必須マニュアルといえるでしょう。

1)本日紹介する書籍

未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則

馬場隆明(著)
475ページ、英治出版(2021/1/29)
https://amzn.to/3xi6tKN

2)本書を選んだ理由 どんな人が読むべき

著者は、本書の対象読者を「スタートアップや社内の新規事業として社会を変えていくための取り組みを行いたい方々」としています。
しかし、私はテクノロジーと今後の社会の関係に関心を持つすべての人に有益な本だと思います。
特に、ITで企業支援を行っている人、行おうとしている人にお勧めです。

3)付箋

人類の手によって生まれたテクノロジーを最大限活かすには、テクノロジーをうまく受け入れて活用できる社会が必要です。そのためには社会を理解し、ときには社会を変えていく必要があります。

そもそも課題とは、現状と理想のギャップです。理想がなければ、課題は見つかりません。課題や問いを見つけるためには、理想を定める必要があります。優れた理想を設定することで、良い問いを「生み出し」、理想を「提示する」ことで人々を巻き込むのです。そしてこの理想が、今注目されている「インパクト」と呼ばれるものです。

「日本の社会実装に足りなかったのは、テクノロジーのイノベーションではなく、社会の代え方のイノベーションだった」

テクノロジーの社会実装とは、テクノロジーの力によって社会を変えようとする営みであると同時に、社会の仕組みを変えることによってテクノロジーが活用される社会を作り出す営みです。

「成功する社会実装」には、四つの原則があるようです。①最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している。②想定されるリスクに対処している。③規則などのガバナンスを適切に変えている。④関係者のセンスメインキングを行っている。

多くの人の共感や合意を得られるインパクトを考えるうえで、実感を持ちやすく、わくわくするような未来を描くことも意識しましょう。

インパクトが定まったら、設定したインパクトを達成するために、インパクトから逆算してアウトカムやアウトプット、アクティビティを設定していきます。こうして未来を最初に設定して、そこから逆算していく考え方はバックキャスティングと言われます。

4)今日の気づき

「中小企業等事業再構築促進事業」のロジックモデルが公表されていますね。
「ロジックモデル」ってどんなものか、そして「インプット」「アクティビティ」「アウトプット」「アウトカム」「インパクト」のそれぞれの意味が、本書のおかげで良くわかりました。
ところで、事業再構築補助金のインパクトって今のようなものでよいのだろうか?

5)本書の目次

1 総論 テクノロジーで未来を実装する
2 社会実装とは何か
3 成功する社会実装 4つの原則
4 インパクト 理想と道筋を示す
5 リスク 不確実性を飼いならす
6 ガバナンス 秩序を作る
7 センスメイキング 納得感を醸成する

紹介する書籍

未来を実装する テクノロジーで社会を変革する4つの原則

馬場隆明(著)
475ページ、英治出版(2021/1/29)
https://amzn.to/3xi6tKN