本シェルジュの平鹿です。
本日紹介するのは「日本車は生き残れるか」。センセーショナルなタイトルですが、日本の状況、そして米国、欧州、中国の状況を複眼的視点で理性的に、でも、それだからこそ強いインパクトをもって示してくれます。
本書での課題認識や方法論は決して目新しいものではありません。社会的課題を起点とした発想への転換、モノづくり至上主義からの脱却、垂直統合から水平分業といった主張は、近年のビジネス書で繰り返し述べられていることでしょう。本書の意義は、日本の最大の産業であり、最後の?砦である産業の現状を扱っている点、グローバル、特に欧州との比較により、日本の停滞の根深さをあぶりだしている点にあります。
自動車というとEV化や自動運転にばかり目が行きますが、世界の潮流はもっと大きなうねりを持って動いています。本書を読むと、社会課題への対処と自動車のネットへの組み込み/デジタル化が変革の根底にあることが解ります。この潮流には個々の事象バラバラではなく、ストーリーで物事を捉え、リーダーシップをもって先を見ながら対処していくことが必要です。世界はそのように動いているのに、なぜ、日本は過去の過ちを繰り返すのでしょう。私は、危機が自らに及んでいることが見えにくい「島国」にいることが根本原因ではないかと思い始めています。
自動車の問題は、様々な産業に応用問題として展開できるでしょう。本書は「戦い方のルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。」と言います。今、生き残っている企業すべてに当てはまる指摘なのではないでしょうか。
今回はちょっと重めの本シェルジュでした。
1)本日紹介する書籍
日本車は生き残れるか
桑島浩彰 川端由美(著)
238ページ、講談社現代新書(2021/5/20)
https://amzn.to/3GUz4Mm
2)どんな人が読むべき
これからも日本で生きていかなければならない人
3)付箋
キーワードは、ここ数年で世界中に広がった「CASE」だ。コネクテッド(connected) のC、自動化(autonomous)のA、シェアリング(shared)/サービス(service)のS、電動化(electric)のEのそれぞれの頭文字をとったもの… 日本の自動車業界では往々にしてE(電動化)やA(自動化)の開発が先行して話題になり がちだが、「C」「A」「S」「E」を並列で眺めていると本質を見誤る恐れがある。
CASEの最大のポイントは、Cつまりコネクテッドによって自動車がIoT(Internet of Things = モノのインターネット)の枠組みの中に組み込まれていくという点なのである。 自動車というモノがインターネットにつながると、自動車を取り巻く世界は大きく変わる ことになる。自動車産業の本当の大変化はそこから始まる。
日本の自動車産業は、「モノづくり」という意味では今でも世界トップレベルの技術を持っ ている。だが、自社の技術力、自社のモノづくりにこだわり続けたあまり、「社会的な課題」 から事業を考えるという視点がやや足りなかったのではないだろうか。
自動車(完成車)を製造する、巨大なヒエラルキーの頂点にいた完成車メーカーが、IoT のビジネスモデルになった途端に、単なるoTとなり、彼らの影響が及ぶ「電動化」や「自動運転」の車載技術の分野を超えた、より巨大な「コネクテッド」の分野が誕生するのだ。
日本の自動車産業は崩壊しない。ただし、戦い方のルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる。
重要なのは「失敗こそ不可欠」という考え方だろう。カメラ(フィルム → デジタル)、テレビ(画質 → コンテンツ)、携帯電話(ガラケー → スマホ)など、デジタル 化が始まった瞬間にルールが大きく変わり、それまで栄華を極めていたプレイヤーが突如 として没落するパターンは産業史が教えるところである。そして自動車産業もおそらく例外ではないだろう。
車というハードウェアを作ることに長けた自動車メーカーが、コネクテッドや自動運転の ようなデジタル化の時代から大きく後れを取ることで、凋落してしまうのではないか。車 だけ作っていれば王様でいられた時代から、ソフトウェアやデータを握った新しい王様の ために車を作るような時代になるのではないか。
これが、「ソフト屋」と呼ばれるIT系のエンジニアになると、日本の自動車産業では、まだヒエラルキーにも組み込まれていないような印象さえ受ける。
4)今日の気づき
本書が発行されたのは、2021年5月。今から丁度1年前。1年で状況はどのように変わったのだろうか。
5)本書の目次
はじめに
第1章 自動車産業はどう変わるのか
第2章 いま米国で何が起きているのか① ビッグ3の逆襲
第3章 いま米国で何が起きているのか② シリコンバレーの襲来
第4章 いま欧州で何が起きているのか
第5章 いま中国で何が起きているのか
第6章 日本車は生き残れるか
おわりに
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