みなさん、こんにちは。本シェルジュの園田泰造です。

皆さまはSTP分析という言葉はご存じでしょうか?

セグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(狙う市場の決定)、ポジショニング(自社の立ち位置の明確化)の3つの英単語の頭文字をとって名付けられた市場分析法で、マーケティング論で知られるフィリップ・コトラー氏が提唱したフレームワークですね。業種や商材などを問わず活用できるマーケティング戦略立案における強力なツールです。

ただ、本書の著者西口氏によれば、この便利なツールも、使い方によっては、マーケターあるあるの罠に陥ってしまっていることが少なくないとのことです。

例えば、ターゲティングの検討時に、具体的なターゲット像として、年齢生物嗜好性などのペルソナを設定することも多いと思いますが、架空の顧客像の想定だけで戦略を決定してしまって良いのでしょうか?

著者は、また、大規模なアンケート調査を実施し、そのその中で最も多い回答や平均的な結果を顧客の声として戦略に取り入れてしまうことを「マスマーケティング思考」として警鐘を鳴らしています。

マンガも使用してとっつきやすい本ですが、マーケターあるあるを打破して、新しい視点で消費者ニーズをつかむ、N1分析と顧客ピラミッドについて、マーケティング初心者だけでなく、熟練者も含めて一読してみてはいかがでしょうか?

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 1)本日紹介する書籍
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新しいマーケティング~一人の顧客分析からアイデアをつくる方法
池田書店 (2021/9/13) 207ページ
西口一希 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4262174794/

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 2)本書を選んだ理由    どんな人が読むべき?
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マーケティング担当の新任者はもちろん、熟練マーケターや個人事業主の方、BtoCに限らず、BtoBのビジネスや人事採用担当者、経営者の方など、対象となるヒトへの理解を深めたいと、より良い結果を生み出そうと努力しているすべての方へ。

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 3)付箋 ~本書からの内容抽出です
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P30  商品をヒットさせるには、他社商品にはない独自性と、その商品が顧客にとって具体的なメリットである便益の両方が必要です。本書では、独自性と便益を兼ね備えた提案のことを「アイデア」と呼びます。

P33  そこで役立つのが、顧客一人(N1)に焦点を当てて、徹底的にその心理を探り、理解する「N1分析」です。実は顧客に刺さるアイデアを生み出すには、たった一人の声を深掘りすることが有効なのです。

P40 マスマーケティング思考(以下、マス思考)とは、端的に言えば「最大公約数を求める思考」のこと。(中略)しかし、マス思考では、どの顧客が、どの商品に、どんな魅力を感じているのか、あるいはどんな不満を抱えているのかなど、顧客の心理的な部分まで深く知ることはできません。その結果、当たり障りのない戦略を打ち、失敗に陥ってしまうのです。

P80 私はこれまでに多くの企業のコンサルティングを担当してきましたが、ターゲット顧客の認知率が50%を超えていたのは、ほとんどありませんでした。大多数の商品はターゲット顧客の半分に存在すら知られておらず、実質的に新商品であると言えるでしょう。

P101 徹底した顧客一人の分析が起点となり、強い独自性と便益を生み出し、他の顧客にも響くのです。一人に注目することをためらうあまり、マス思考にとらわれて顧客の顔が見えていない状態になることのほうが、リスクが高いといえます。

P102 本来は顧客から直接ヒアリングする必要がありますが、実際は社内で「都内在住、30代女性、子どもが二人いて……」と架空の顧客イメージを生み出しているケースが多いのです。想像でつくられた顧客像は、平均的な特徴を持った架空の顧客にすぎません。いくら詳細まで考え込んだとしても、存在しない顧客からはアイデアのヒントは得られないでしょう。場合によっては、マーケテイングや経営戦略を惑わす要因にすらなるのです。

P133 顧客ピラミッドとは、自社の顧客を「ロイヤル顧客/一般顧客/離反顧客/認知・未購買顧客/未認知顧客」の5つに分類し、顧客全体を把握する方法です。(中略)顧客ピラミッドを作成すると、潜在顧客も含めた顧客全体が可視化されるため、中長期の戦略を立てやすくなります。

P139 このように顧客ピラミッドを作成すれば、確セグメントへの費用の割り振りは適切か、かけた費用に対して十分な売上・利益を獲得できているかなど、セグメントごとに分析や振り返りができるのです。

P148 顧客を徹底的に理解するには、顧客ピラミッドとあわせてN1分析が必要です。(中略)顧客一人をインタビューで徹底的に深掘りする中で、心理的変化を与えた体験や使用・購買につながった理由が見つけられれば、強力なアイデア創出のヒントになります。

P159 行動データだけでは、購買行動を左右する心理的要因までは把握できません。(中略)顧客の購買行動を左右する理由を探り、効率よく施策を考えるためにも、心理データが重要になるのです。(中略)心理データは非常に有効なデータですが、鵜呑みにするのは危険です。心理データには限界があることをふまえて、顧客一人ひとりの行動や心理を深掘りすることが重要なのです。

P206 本書のストーリーで、「社内で何かを議論するときの主語が顧客になった」というシーンがあります。会社がこの状態になれば、所属部門や担当責任を超えてみんなの意識が顧客を向いて問題解決意識を持つようになります。

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 4)今日の気づき
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マーケティングの世界には、STP分析、RFM分析、ペルソナ分析、カスタマージャーニー分析等々有用で強力なフレームワークやツールがたくさんありますが、本来の対象である「顧客」がいつのまにか見えなくなってしまうと、自分に都合の良い架空の顧客を作り上げてしまい、誤ったコミュニケーション施策で操作しようとしても、結果はおのずと知れてしまうわけですね。

「N1分析」にしろ、「顧客ピラミッド」にしろ、他のフレームワークを含めたマーケティングツールを正しくつかうための「ツール」ではありますが、少数の顧客を深掘りして、じっくりと顧客と向き合うという姿勢は、中小企業でも十分対応できる内容であり、逆に強みが活かせるシーンも多い気がします。

ついつい効率性を重視しすぎて、顧客を最大公約数的に十把一絡げでまとめて数値化、データ化して満足してしまって、実際の顧客の顔が見えなくなるのは、マーケターのあるあるらしいので、ここは原点にもどって、アナログながら、一人の顧客ととことん向き合う時間を大切にしていく必要がありそうですね。

そのうえで、行動データや心理データを駆使し、顧客に寄り添った「アイデア」をプロダクト面でも、コミュニケーション面でも創出していけば、きっと結果はついてくるはず。

それこそ、著者のイイタイコトを読者に適切に伝えるコミュニケーションアイデアとしては、マンガは独自性も便益も立派に果たしているということを読後感としてもひしひしと感じましたから。まさに一本取られました。

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 5)本書の目次
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P8  :はじめに
P14  :第1章 間違いだらけのマーケティング戦略
P44  :第2章 プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデア
P86  :第3章 N1から正解のアイデアを見つけよう
P122 :第4章 必勝の戦略を組み立てるカギは”顧客ピラミッド”
P206 :おわりに

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新しいマーケティング~一人の顧客分析からアイデアをつくる方法
池田書店 (2021/9/13) 207ページ
西口一希 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4262174794/