こんにちは、「本シェルジュ」の大橋功です。
コロナ禍で、政治家や企業トップが指導力、発信力を問われる場面が増えてきました。人々がパンデミックへの恐れ、不満、怒りの感情を抱く中、感染防止への要請や協力に対して共感し前を向くか、落胆し非難するかの分かれ目は、ここぞという会見や会合でのリーダーのスピーチではないでしょうか。
この本を読もうと思ったきっかけは、巷によくある「話し方のテクニックを教える本」ではなく心に響くスピーチ、言い換えれば「パワースピーチ」とは何か、それをどのように考え出せばよいか、「スピーチの中味」を論じた本であることです。
著者は社会学者として著名な橋爪大三郎氏。パワースピーチの具体例として、米国ニューヨーク州のクオモ知事、ドイツのメルケル首相、そして英国のチャーチル元首相のスピーチを取り上げ、なぜ心に響くかを詳細に分析しています。日本の安倍前首相の緊急事態宣言発表スピーチを例にあげて具体的に添削し、橋爪流の「パワースピーチ」に近づけて見せているのも読みどころです。
1.本日紹介する書籍
パワースピーチ入門
株式会社KADOKAWA(2020/7/10)301ページ
橋爪大三郎(著)
2.どんな人が読むべき?
人の心に響き、伝わるスピーチの作り方を知りたい人
3.付箋~本書からの内容抽出
パワースピーチとは何か。パワースピーチは、力強いスピーチ。聞く人の心に届いて、ほんとうにそうだ!と思うスピーチ。人を動かすスピーチ。勇気が湧いてくるスピーチである。(P.3)
クオモ知事のブリーフィングの特徴を、まとめてみよう。第1に、データが豊富で、とても具体的だ。・・・事実とデータに裏付けられて、意思決定を行うという気迫と意気込みが感じられる。・・・第2に、データはバラバラではなくて、関連付けられている。・・・第3に、・・「未来は誰にもわからない、未来はいまのわれわれの行動にかかっている」とよく言う。データにもとづかなければならないが、データに縛られてはならない。リーダーの鉄則である。(P.68)
パワースピーチは、どうやって生まれるのか。それは、話し手にかかっている。話し手が状況を把握し、聞き手の状態を理解し、いまどういうアクションが必要か考える。そしてそれには何を、どういう順番で話せばよいかを考える。そしてそれを、ひとつずつ言葉に置き直していく。そうすれば、パワースピーチができあがる。(P.130 )
ふつうの話し言葉で話すように、原稿を書きなさい。大きな枠組みで論理を組み立て、本質をストレートに語りなさい。この二つを肝に銘じれば、誰でも、ちゃんとしたスピーチ原稿がつくれるだろう。(P.246)
4.今日の気づき
・言うべきことを考えて、要らない箇所をそぎ落とし、話のストーリーを作っていけば、自然とすっきりしたスピーチになる。
・ 余計なことは言わなくてよい。逆に、余計なことが混じっている間は、何を言うべきか自分でもわかっていない。
・ 小難しい言い方(著者の言い方を借りれば「整備文体」や「力みフレーズ」)より、平易な表現の方が伝わりやすい。
等々、スピーチをする上でこれまで何となく感じていたポイントを、随所で歯切れよく整理しているので、読んでいて小気味よさを感じます。
人前で話す機会のある人にとって、相手に伝わるスピーチをしたいというのは永遠のテーマでしょう。その際には話し方のテクニックより、まず話す中味の作り方を学ぶのが大事という点を改めて教えてくれます。
スピーチ原稿を考えるときの参考になりそうな、「話す勇気」の出る本です。
5.本書の目次
第1部 伝説の討論
第2部 これがパワースピーチだ
第1章 クオモNY州知事の伝え方
第2章 メルケル首相の言葉を紡ぐ力
第3章 チャーチルはなぜ歴史を動かせたか
第3部 パワースピーチの作り方
第4章 添削で良くなるスピーチの実例
第5章 日本の名スピーチの実践者たち
第4部 スピーチ力を伸ばす
第6章 スピーチ原稿を書く
第7章 スピーチ力を育む
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