こんにちは、「本シェルジュ」の大橋功です。
「最後通牒ゲーム」はある金額のお金を2人で分け合うゲームで、行動経済学の実験として有名。例えば一方の人に1000円が渡され、その人は相手にいくら渡すかを自由に決められます。但し渡した金額を相手が拒否したときには2人ともお金をもらえない、つまり取引は成立しない、というのがルールです。
合理的に考えれば、渡すほうが大半をキープして相手にほんの少ししか渡さなくても取引は成立しそうですが、実際には平均して3~4割を相手に渡し、また受取る側も3割以下だと拒否する場合が多いそうです。
この結果から連想したのが、コロナ禍での人々の行動です。外出するとき無意識のうちに人の目を気にしたり、三密回避などのマナーを守っていない人を見聞きすると怒りを感じる。こういった行動パターンにつながるものがあると感じました。
行動経済学の単純なゲームが今日的な問題を考えるヒントになりそう、というのが本書を手に取った理由です。21年度の日経・経済図書文化賞を受賞した経済の専門書ですが、ミステリー的な謎解きの面白さも味わえる、とても読みやすい本です。
1)本日紹介する書籍
「最後通牒ゲームの謎」
~進化心理学から見た行動ゲーム理論入門~
日本評論社(2021/6/25)305ページ
小林佳世子(著)
2)どんな人が読むべき?
- 自分の得にならないと分かっていても他人の目を気にする、あるいは不公平なことに対して自分に直接関係なくても嫌悪を感じる、そのような行動をとるメカニズムに関心を持つ人
- 行動経済学やゲーム理論に興味があるが、初心者でも読みやすく内容もしっかりしている本があったらいいな、と思っている人
3)付箋
『今までの議論をまとめると、(お金を渡す)Aさんが気にしているのは、他者からどう見られるのかという「目」や「評判」のようです。・・(中略)・・心配しているのは、「正しいことを行う」ことというよりは、「正しく見える」こと、そして自分の中でそう思えることのようでもあります。』
p.90
『受ける人であるBさんは、極端に低い取り分しか渡さないという意図的な不公平に強い嫌悪感や怒りを覚え、「悪い奴の苦しみは喜び」として、罰への強い欲求を感じているようです。』
P.144
『ヒトは裏切り行為には非常に敏感で、意図的な特にすぐに見つけられるうえ、その情報はゴシップとしてあっという間に集団内に広まりかねません。・・(中略)・・裏切り者は、見つけられ、覚えられ、広められるのです。・・(中略)・・進化の中で、「周囲の他者への配慮」というメカニズムが、自らの生き残りのために組み込まれていったのです』
P.186~187
『これらを一言でまとめるならば、すべては進化の舞台となる古代の環境を前提とした、生き残り子孫を残すための「生き残り戦略」です。・・(中略)・・これを本書では、適応という観点からみて合理的という意味で、「適応合理性」とよびたいと思います。』
P.210~211
4)今日の気づき
一般読者向けの行動経済学の本は色々出ていますが、どちらかというと、「将来より現在の利益を過大評価する」といった人間の行動の「くせ」を説明し、日常生活に役立てたり、マーケティングの効果を高めるための「便利ツール」的に紹介する、という内容が多いように思います。
それに対してこの本は、人間がこのような「くせ」を持つに至った根源的な理由を、人類の進化の歴史にまで踏み込んで、とことん追跡している点がユニークです。
人間の一見合理的ではない行動も、実は大昔から面々と受け継がれてきた、「集団の中での生き残りの知恵の表れ」という指摘には考えさせられます。
宗教や文化、考え方の違うグループに属する人間同士が、それぞれの集団の中で「裏切り者」といわれないように行動することにより、結果的に対立することにもつながるように思えます。真の要因を理解することで、よりよいコミュニケーションができるきっかけにしたいですね。
5)本書の目次
【はじめに】 もっとも不可解な結果!?
【第1章】 謎解きの道具
【第2章】 ホモ・エコノミクスを探して
【第3章】 「目」と「評判」を恐れる心
~なぜ独り占めしようとしないのか?
【第4章】 不公平への怒り
~なぜ損をしてまでノー!というのか
【第5章】 脳に刻まれた”力”
~裏切り者は、見つけられ、覚えられ、広められる
【第6章】 進化の光
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