本シェルジュの平鹿です。

ゴールデンウィークが終わりました。皆さんはどんな読書体験をされたでしょうか。私が読んだ一冊は「日本人のものの見方 <やまと言葉>から考える」。日本人であることを深く考えさせられる、そして、これからの自分の生き方にも示唆を与えてくれる、読み応えのある本に出合うことができました。

著者は、タイトルの通り「やまと言葉」を切り口に日本人のものの見方の根っこにあることを解き明かして行きます。日本語は「やまと言葉」「漢語」「新漢語」「カタカナ語」と4つの異なる言語から構成されているそうです。そして、日本人が肌感覚をもって話せる言葉が「やまと言葉」です。訓読みで表される言葉ですね。著者は、同じ語源をもった言葉を次々に示していきます。この言葉、あの言葉はこんな関連があったのか、と新鮮な驚きと共に、豊かな言語空間の存在に気づかされます。

著者が、まず注目するのは「自」という漢字です。この字は、「おのずから」と「みずから」と背反するような2通りの訓読が可能です。つまり、前者であれば運命的、受動的な、後者であれば、主体的、能動的な意味合いとなります。ここを起点に様々な例を引きながら、日本人は『「みずから」主体的に「うむ」、「つくる」といった営みと、自然の「おのずから」「なる」はたらきとを、元来、不可分の関係にあるものとして捉え』ていたということが説明されます。ここまでであれば、他の日本人論でも論じられた内容かもしれません。だから、日本人は主体性に欠け、無責任になり勝ちであるという見解と共に。

著者は、ここにもう一つのキーワードを持ち込みます。それが「あわい」です。「あわい」は「あいあう(相合う)」の約まった動詞「あわう」が基になる言葉で、複数のものが調和された状態を指します。そして様々な古典や外国語との対比を通じて、日本人は「あわい」を生きてきたのだと説明します。つまり、『論理的には相容れない複数の思想や感性の狭間で、その間に無理に白黒つけるのではなく、良い「あんばい」に物事をもっていく努力を通じて、各々が直面する現実を引き受けて生きていく』生き方を理想としてきたということです。「おのずから」と「みずから」が不可分というのは、同時に「あわい」に対する強い意志を伴ったものだったのです。

筆者が主張したいのは、だから日本人は優れている/劣っているということではありません。カタカナ語が氾濫する中で、本来、日本人が根っこで持っていたものを見失い、表層的な思想を断片的に取り入れるのでは、日本を取り巻く問題は決して解決しません。この本は、根っこを正しく認識することの大切さに気付かせてくれます。根っこを起点としながら、単純な否定でも、復古でもなく、今後の社会を生きるための我々自身の「ものの見方」を見出していくことが、今必要なことなのでしょう。

1)本日紹介する書籍

日本人のものの見方 <やまと言葉>から考える

山本伸裕(著)
280ページ、青灯社(2015/9/30)
https://amzn.to/41ADyQV

2)本書を選んだ理由 どんな人が読むべき

カタカナ言葉に囲まれて仕事することにつかれ始めている人

3)付箋

この世界の一切の出来事は、「おのずから」と「みずから」とが「適当」に触れ合い、「いい加減」に交わるところに起こる、ということでもあるのでしょう。

これらのやまと言葉には複数の物事の関係を良い「あんばい」に配合し、「相合う」状態が実現されることを理想としてきた日本人の思想の特色が、如実に示されていると言えるのではないでしょうか。

私たちが常日頃から慣れ親しんでいる、ありふれた日本語表現の中には、自己を包み込む大いなる世界への眼差しを通じて、自分自身の生のありように反省を促すはたらきをもつものが少なくないのです。

自己に経験されたある出来事を「納得」して受け入れ、人生を肯定的に生きていく力に変えていくことができたと確信されたところに生じる身体反応が、「頷き」の正体であろうと考えているのです。

個を過度に際立たせることが「みずから」の偏重へとつながり、世界との「あわい」を台無しにしてしまうことへの強い警戒感がはたらいているように、私には思われます。

日本の「ものづくり」は、いまでも世界から高い評価を受けています。そうした技術力を下支えしてきたのは、日々「もの」に向き合い「こと」を生み出すという、「宗教心」なしには成り立ちえない、日本人ならではの仕事観、職業倫理だったというのが、私の理解です。

近代以降、日本人の実生活の中で培われてきた「あわい」に立つ思想そのものが急速に省みられなくなったことで、多かれ少なかれ、多くの人が、現実の社会に生きていく縁として、強い「個」を確立すべく努力しなければならなくなった。そのことが、「前のめり」の思想を助長させたことで、社会を暴走させる原因ともなったことは、決して見過ごしにされてはならないでしょう。

4)今日の気づき

生成型AIと日本人は相性が良いという意見がありますね。仮にそれが本当だとすると、ドラえもん以上に日本人のものの見方に要因があるのかも。

5)本書の目次

序論 <やまと言葉>で考える
第一章 日本人の「自己」の構造
第二章 日本人は「宗教心」に篤いのか
第三章 ニヒリズムを超えて
第四章 「仕事」と日本人
第五章 憂き世を浮き世に