さて今回の本シェルジュでは「新規事業開発」をテーマとした本、タイトルもズバリそのもの「イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント ――不確実性をコントロールする戦略・組織・実行」を紹介したいと思います。

驚くべきことに、筆者は最初にこの本の主題である「新規事業開発」について、以下のような結論(※執筆時点)を「はじめに」で述べています。
『どの企業の、どのような状況にも当てはまる新規事業の成功法則や、手法論といったものは存在しない』
経験豊富で数々の新規事業開発を多く手掛けてきた筆者の言葉には重みがあります。その筆者が「成功法則や手法論はない」と述べているところに、新規事業の難しさを感じます。その上で『「日本企業が今後の新規事業開発に向けてどう向き合っていくか?」を論じることに重きを置き、テーマとしています。』と述べています。このあたりについては、私なりに思ったところ、感じたところを紹介していきます。

本日紹介する書籍

イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント ――不確実性をコントロールする戦略・組織・実行
日本経済新聞出版 (2021/9/2) 240ページ
北嶋貴朗(著)

本書を選んだ理由~どんな人が読むべき?~

どんな人が読むべきか? Amazonのレビュー(本の紹介文)がとてもわかりやすいので、合わせてお読みください。
https://amzn.to/43lbv9r
(本書の帯では「2,500社、12,000の事業開発」となっているのに、Amazonの紹介文では「3,000社、15,000の事業開発」となっていることに着目!ものすごい勢いで伸びています。)

・これから起業しようと思っている方
・ベンチャー企業で働いている方
・大手企業で社内新規事業に携わっている方
・新規事業開発や起業を支援する(している)方

付箋~本書からの内容抽出です~

P.37 企業の新規事業開発がうまくいかない3つの理由
大企業や一手の経営資源を保有する企業における企業内新規事業開発がうまくいかない理由として、どのような壁があるのでしょうか。(中略)
① ビジョンや新規事業開発に関する方針・戦略がない。
② 良質な多産多死を実現するための組織になっていない。
③ 自社の性質や事業の不確実性に応じた事業開発プロセスを実行していない

P.46 7つのステップで新規事業開発の全体ストーリーを描く
ビジョンに基づく新規事業開発全体の方針や戦略を策定する段階では、具体的にどのようなステップで実施すべきでしょうか。筆者は右ページの図表(設楽注:図表には以下の7つのステップが記載されています。)のように定義しています。
① 全社ビジョンを明確にし、企業としてどこへ向かうのかを示す
② ビジョンの実現に向け、なぜ今、新規事業に取り組むかの意義を見出す
③ 既存事業の干渉を受けない新規事業への投資原資を確保する
④ どんなテーマや領域で、どんな事業に取り組むかを定義する
⑤ いつまでも、どの程度の目標を狙うかという目線を会わせる
⑥ 誰が、どのように新規事業開発を行うのかのアプローチを検討する
⑦ 何に対して、いくら投資するか、適切なポートフォリオを組む

P.81 質の高い挑戦を量産し、再現性高く実行するための「組織と人材」とは
新規事業開発の再現性を高められる組織を作るためには、何が重要になるのでしょうか。(中略)
① 組織・人材に対する考え方や軸、根底にある思想や価値観の醸成
② 新規事業のリーダーに適した人材=イノベーター人材の発掘・支援
③ イノベーター人材やチームの能力・効果を最大化する育成・支援
④ 健全な多産多死を構造的に実現する組織文化や仕組みの構築・定着

P.93 (図表)新規事業に成功していない企業の自社の強みを活用する上での課題(n=720)
人材が不足している(49.3%)→新規事業開発には人材の問題が大きく寄与
コストの負担が大きい(30.3%)
他社との競合により、製品・サービスの差別化が出来ていない(25.6%)
PR活動・ブランド戦略の方法がわからない(16.3%)

P.105 客観的で納得感のある「撤退基準」を準備する
健全な多産多死を実現するためには資金や設備・システムなどのハード面での経営資源も必要ですが、それ以上に「撤退することになった新規事業を経験してきたイノベーター人材やチーム、そこに蓄積された経験やノウハウなどのソフト面での経営資源」こそが重要です。

P.182 (図表)新規事業開発に適したチームの要件
新規事業においては、アイデアやプラン≦チーム力、苦境の連続を乗り越える強いチームを作れるかが成否を分ける
強いチームを作るための要素:少数精鋭,一貫性と網羅性,共感と親和性

P.226 先進的企業の「イノベーション・エコシステム」とは
仮に新規事業に失敗しても、そこで得た知見や経験を元にチームやイノベーター人材は成長し、さらに質を高めた再挑戦を繰り返すことができます。そして継続的に新規事業の創造と組織や人材の成長が促されるという健全なエコシステムが完成します。

P.234 おわりに
新規事業開発やその支援に長く携わっていると、どんなに素晴らしい事業構想やアイデアがあったとしても、それを愚直に実行し、ビジョンを実現する事業リーダーと、リーダーを中心とした強い組織やチームが存在しなければ何も意味しないことを痛感します。

今日の気づき

この本について、いくつかピックアップしました。
が、たまたまではありますが、私より深く本書を紹介しているサイトがありました。(※サイトを書かれた方と私とは面識ありません。) 本書に興味を持たれた方は、あわせてご一読いただければと思います。
https://note.com/fujiitetsuya/n/n1e6640c04c51

私自身の気付きは、新規事業開発の大変さももちろんありますが「新規事業開発はやっぱり”人”である」と感じた点です。
新しくつくる製品やサービスも(やり方は様々あれど)人が考え出すものですし、何よりも課題になるのが「人がいないこと」であったり、市場調査を行う(分析する)のもまた人です。いろんなものがAIに代替されていく、そんな時代ではありますが、新規事業開発は全てが人起点だと感じました。
先日、G7が広島で行われました。G7開催国である日本は世界が認める先進国です。しかし少子高齢化に伴い、今は「課題先進国」ともいえる状況です。そんな日本社会を変えるのは、直面している課題をいかに乗り越えていくかにかかっていると思います。そのキーとなるのが「新規事業開発」。私自身も本書を読んで学び、実践する意欲がわいてきました。この本を手に取られた方、共に勇気をもってチャレンジしましょう。

本書の目次

はじめに
第1章 なぜ今、新規事業やイノベーションが必要なのか?
第2章 新規事業開発は、なぜうまくいかないのか
第3章 いかにしてビジョンを描き、新規事業開発の方針や戦略を策定するか
第4章 良質な新規事業への挑戦を量産できる組織を作る
第5章 不確実性をコントロールする新規事業開発プロセスとマネジメントとは
第6章 新規事業を構造的にグロースさせるための理論と実行
第7章 先進的企業の「イノベーション・エコシステム」と「インキュベーションの民主化」が創る日本経済の未来
おわりに
参考文献

イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント ――不確実性をコントロールする戦略・組織・実行
日本経済新聞出版 (2021/9/2) 240ページ
北嶋貴朗(著)