こんにちは、本シェルジュの堀江賢一です。     デザイン思考については、本メルマガでも何名かのホンシェルジュが取り上げたことがありますので、おそらくご存知のかたも多いのではないかと思います。
デザイン思考は、考え方の特性などから、「論理思考」の対立軸にあるものと考えられがちです。しかしながら、別物と扱いつづけていると、論理の世界の住人とデザインの世界の住人との間に溝ができるだけで、イノベーションは起きないのです。
本書はこの2つの思考の橋渡し役となり、2つの考え方を昇華させたビジョン思考というものについて解説している書籍です。
明日からのご自身の思考トレーニングに組み込むもよし、会社の中でプロジェクトチームを立ち上げるもよし、さまざまな気づきと考え方、そしてメソッドをもたらしてくれます。

本日紹介する書籍

「直感と論理をつなぐ思考法」
ダイヤモンド社(2019/3/7)271ページ
佐宗邦威(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478102856

本書を選んだ理由〜どんな人が読むべき?〜

特に管理職層や管理職一歩手前の「PDCAがアタリマエ」で育ったビジネスパーソンには効果てきめんだと思います。
まず本書に示されているように、「経営管理が役に立たなくなってきている」という事実を受け止めることから始まりますが、ここにアレルギーを覚える方も多いでしょう。今までの自分を一旦否定してゼロクリアしなければいけないのですから。しかし、事実なのです。
だからこそ、企業組織の変革を担うミドルリーダー層には一番読んでいただきたいのです。

付箋 本書からの内容抽出です

安定して業績を上げている企業でも、売上・利益、株主、マーケット、競合他社など、「外部」ばかりを見ているうちに、「自分たちの原点」=「そもそも何がしたかったのか」を見失ってしまうのだ。すると、その組織からは不思議とエネルギーが失われ、それが数年後には経営状況にも響いてくるようになる。逆に、圧倒的な結果を出し続けている会社やチームの影には「これがやりたい!」という強い思いを持った人達がいる。彼らを動かしているのは、「論理的に導き出された戦略」や「データ分析に基づいたマーケティング」などではない(はじめに004)


「直感から試行を始める」とは、「ただの妄想で終わる」ということではない。ビジョナリーな人たちは、途方もないビジョンを駆動力にしながらも、同時に「直感」を「論理」につなぎ「妄想」を「戦略」に落とし込むことを忘れていないのである。本書では、このような思考のモードを「ビジョン思考(Vision Thinking)」と呼んでいる(はじめに010)


人間誰しもPDCAが支配する「カイゼンの農地」の住民だ。ここでは、一定のルールに従って、いくつかの正解を求める活動が繰り広げられる。いかに効率を上げ、生産性を高め、収穫量を増やすかが重要な世界。しかし今この世界に「VUCAの霧」が迫っている。(Volatility Uncertainty Complexity Ambiguity 変動、不確実、複雑、曖昧)。このVUCAの霧によって、文字通り答えが存在しない世界になってきた。そもそも答えなどないという前提で動くことが、大半の人・組織に求められるようになってきた。ここではむしろ、勤勉さは足かせになってしまう(P.30)。


このような危機感を背景に、自ら動いて収穫を得ようとする人たちが出てくる。PDCAやリスク管理に守られた農地を抜け出し、一定のリスクを取りながら狩猟・採取や陣地取りに明け暮れる。それが2つ目の世界「戦略の荒野」である。ここで勝敗を左右するのは戦略思考である。ここでは、既存のルールを壊し、新しいルールを作りゲームそのものを変えてしまいこれまでと別の勝ち方をする者が生き残る。しかし、この戦いは終わりがない。大きなプレッシャーやストレスを伴うため、それを一生繰り返したいと思える人は一握りであり、多くが途中で山を降りる。山を降りた人たちは戦略思考の限界に気づいている。そこで次にデザインの平原に行き着く(P.38)


『デザイン思考のシンプルな本質』①手を動かしながら考える(プロトタイピング)まず手を動かしてみて、その中で発想を刺激し、新しいものを作り上げていく(構築主義)。まず不完全なアウトプットを行い、それを起点に対話、内省を促していく。②五感を活用して統合する左脳・右脳、論理・直感、言語・イメージ、といった二項対立を乗り越えて両者を統合して新しいものを作る。プロトタイピングで具体物をアウトプットしたらそれをVAK(Visual Auditory Kinesthetic )の観点から言語化してみる。特に新しいものを生むためには、なんとなく気になる、という直感的な体感覚(Kinestheticモード)から始め、自分なりのアイデアを具体的なイメージといて描く視覚モード(visual)にうつり、最後にそれに呼び名をつける(auditory)という順序で考えるのが自然ではないかという仮説を持っている。③生活者の課題をみんなで解決する人間中心の共創プロセス。デザイン思考では、最初にプロトタイプが可視化されてアウトプットされる。どのような形でも良いので具体物があることで、それに対して「なんだかここはガヤガヤしている」(聴覚言語)「もっと温かみが出せないかな」(体感覚言語)といったフィードバックが出てくる。このフィードバックループを回してプロトタイプをブラッシュアップしていく(P.50)


しかし、このデザインの平原に合わない人たちもいる。戦略思考に染まってしまい、デザインの平原の先住民たるデザイナーやアーティストと馴染まなかった人たちは迷子になってしまう。そしてふと目を上げたところに「人生芸術の山脈」を見つける。ここでは誰もが『自分が一体何者で何をしたいのか』を探し、他人の目など気にせず山を登り続けている。この人生芸術の山脈は険しく、かつ周りには様々な障害があり、周りから近寄ることができない。では、そこに至るのを断念するしかないのか?諦めかけた時、ふと地面を見てみると4つの大地の真ん中に大きな穴が空いていることに気づく。
この穴が、変わるための周り道へと続いている。トランジション理論という理論で説明される。この理論は、人生における転機には3つの段階がある、とするものである。
①終わらせる段階
②ニュートラルな段階
③次のステージを探す段階の3段階である。
①いつの間にか生まれた停滞感や退屈さが、次のステージへのサインとなる。
②では、慌てて次に行かず日々の自分の感覚に意識を傾けことに集中する。
トランジションの時は、一時的に周囲から認められなくなる。そうした厳しい環境になって初めて、周囲に影響されない自分のビジョンや価値尺度を、みつめなおせる(P.64)

4つの大地の穴に思い切って飛び込んでみると、4つの部屋があるのに気づく。・第1のアトリエ:妄想の部屋 不思議な地下アトリエの最小の部屋は、地上での世界で蓋をしている自分自身の内面や潜在意識と向き合い、「本当の関心」と出会うための場所「妄想の部屋」だ。大事なのは、自分の持つ欲望や、好きなこと、わくわくすることに向き合うこと。見事妄想を引き出せた人は、いても立ってもいられなくなり、そのまま地上に戻る人もいる。一方、この部屋から次の部屋に繋がる扉は、自分の妄想を「もしも・・・だったら?」という魔法の問いかけに落とし込むことで開くようになっている(P.68)

・第2のアトリエ:知覚の部屋第2のアトリエは、妄想の解像度を高めるための空間だ。部屋の壁やボードにはさまざまな写真や詩のフレーズなどが無数に張り出されており、それらを眺めたり手で動かしたりしながら、自分にピンとくるビジョンの設計図や世界観のコラージュを作っていく(P.68)

・第3のアトリエ:組み換えの部屋3番目のアトリエは、解像度を高めてアイデアらしくなってきた妄想の独自性を徹底的に突き詰めていく工房である。他人の目線で外から眺め直し、自分らしい世界観に基づいた独自のコンセプトへと磨き上げていく(P.69)

・第4のアトリエ:表現の部屋最後の部屋は、アイデアとして組み替えた妄想を一旦具体的な作品にする空間「表現の部屋」だ。自分の大事なビジョンを表現した作品に対して、小規模グループで批評し合い、そこで得た感想やフィードバックによってモチベーションを高めたり、次なる妄想の種を作ったりすることが、この場所の狙いだ(P.70) 展示を終えた人は、再び妄想の部屋に戻り、妄想を起点にしたプロトタイピングのサイクルに入っていく。これを何度も繰り返すうちに、表現の部屋の裏手には、それぞれの住人たちが作った作品の山が積み上がっていく。これこそが人生芸術の山脈の正体だ(P.71)

 今まで述べたような思考のモードを習慣として成り立たせるには、次の2つのものが必要になる。①ビジョン思考の「スペース」②ビジョン思考の「メソッド」あなたの職場には、ビジョンが生まれる「余白」があるだろうか?それを形にする「キャンバス」は用意されているだろうか?もしそれらがまったくないのであれば、まず「余白」をつくるところからスタートするべきだ(P.81)

 以前、カーツワイルが立ち上げた「シンギュラリティ大学」のエグゼクティブ・プログラムを僕が受講した際にも、まず伝えられたのは「10%のカイゼンよりも、10倍にすることを考えろ」ということだった。おそらく多くの人は「え?10倍?そんなの無理に決まっている!」という感想を抱くはずだ。しかし、以外に思われるかもしれないが、シンギュラリティ大学が「10倍」を推奨するのは、なんと、そのほうが「簡単」だからなのである。なぜか。今よりも10%の成長を続けるのは努力が必要である。ある種の頑張りが求められる。他方、10倍の成長は、今までの種の努力では到底到達不可能だとわかっているので、根本的に別のやり方を考えるしかない。そして努力の呪縛から解き放たれ、自分だけで達成するのではなく、世の中にあるあらゆる資源を活用しようという発想になる。だからこそ、「10%よりも10倍のほうが簡単=ラク」というわけだ(P.101)

 イシュードリブン型が限界を迎えているのは、商品開発の現場だけではない。マネジメント層が情報を集約してゴールを設定したり、戦略を立案したりしながら、ヒト・モノ・カネを動かしていくというモデル自体が、うまく行かなっくなっているのである。もはや「経営管理」という考え方が、成り立たなくなりつつあるのだ。こうした流れを受け、ロンドン・ビジネススクールの経営学者ゲイリー・ハメルは、今後の企業経営人の課題は「マネジメント・イノベーション」になると語っている。つまり、従来型の階層型組織が持っている欠点を取り除き「個人」が自律的に戦略立案や意思決定を行う分散型組織へのシフトを、経営トップらが真剣に考えていかねばらないというのだ。そのためには、経営者はごく緩やかな不変のミッションだけを提示しておき、後はそこに集った個人やパートナー企業が思い思いにそれぞれのビジョン(妄想)をミッションの価値観を守る範囲で実現していく、いわゆる「ティール組織」が望ましい(P.105 )

 「あなたは表現していますか?」という問いにすぐに答えられるヒトはどのくらいいるだろうか。以前マーケターをしていたとき、先輩に教えられたことは、クリエーター職ではない限り、ビジネスマンは「表現」の手前までの仕事にフォーカスすべき、というものだった。思うに、これこそが僕たちが乗り越えるべき最後の呪縛だ。妄想→知覚→組替という3つのプロセスを通過し、「ビジョンのアトリエ」の最後の部屋に到着した僕たちは「表現の手前」で立ち止まることなく、「向こう側」に踏み出さねばならない(P.214)

今日の気づき

中小企業診断士であるということは、とにかく論理的であることが求められます。しかし、使い古された3Cや4Pのフレームワークと論理では世の中の動きに追いつかない時代になってきているというのを痛感しました。そして、左脳と論理のちからを生かしつつ、バランスよく右脳とイメージを使ってこそゼロから1を生み出せるのだろうと思いました。
まずは本書に書いてある簡単なトレーニング(モーニングジャーナルなど)から始めてみようと思います。

本書の目次

  • はじめに 「単なる妄想」と「価値あるアイデア」のあいだ
  • 第1章 「直感と論理」をめぐる世界の地図
  • 第2章 最も人間らしく考える
  • 第3章 すべては「妄想」からはじまる
  • 第4章 世界を複雑なまま「知覚」せよ
  • 第5章 凡庸さを克服する「組替」の技法第
  • 6章 「表現」しなきゃ思考じゃない!
  • 終章 「妄想」が世界を変える?
  • おわりに 夢が無形資産を動かす時代

「直感と論理をつなぐ思考法」
ダイヤモンド社(2019/3/7)271ページ
佐宗邦威(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478102856