こんにちは、「本シェルジュ」の大橋功です。

ベストセラーになった「未来の年表」シリーズの5作目ですが、「業界大変化」というサブタイトルに興味を惹かれました。製造業から小売、物流、医療機関、そしてお寺や自衛隊まで、生活に身近な16の業界やサービスに関する近未来の姿を予測しています。

人口減少と少子高齢化で、日本の産業や公共サービスに何が起こるのか?

「人手不足で色々大変になりそうだ」とか、「我々の生活も不便になるんだろうな」といった漠然とした不安はあるものの、具体的に今後どのように日常が待っているのか、まとまった知識を得る機会は意外と少ないと感じていたのが、本書を手に取った理由でした。

瀬戸際の日本にこれから起きる変化を詳細に描くと同時に、「戦略的に縮む」ことによって成長するという処方箋を示すこの本は、多くの業種やサービスをカバーしており、好きなところから読めるので便利です。

1.本日紹介する書籍

「未来の年表  ~業界大変化  瀬戸際の日本で起きること~」

講談社現代新書(2022/12/15)
240ページ
河合雅司(著)

2.どんな人が読むべき? 

  • 人口減少が日常生活にどのような影響をもたらすか、全体像をつかみたい人
  • ではどうしたらいいのか、解決の方向性を知りたい人

3.付箋

・『少子高齢化や人口減少がもたらす製造の現場の若手不足は、日本の『ものづくり』のみならず日本経済にとってのウィークポイントである。・・・資源小国の日本は今後も知恵と技術によって国を興すしかなく、人口が減少するほど技術立国であることの意味は大きくなる。・・・求められるのは若者の突破力だ。』(P.31~32)

・『人口が急減し、しかも高齢者が増えていけば国内の食糧需要も減っていく。いたずらに輸入量や生産量を増やさなくとも、ある程度は自給率が自然上昇する可能性があるということだ。・・・人口減少社会においては食料の保存と的確な流通がポイントだ。』(P.77~78)

・『人口減少スピードが速い地方ほど一般患者の減少も速く、医療機関の経営収益が悪化する可能性が大きいということだ。患者不足で経営が行き詰まり、医療機関が撤退してしまった地域では、人々が暮らしを維持することは難しくなる。』(P.123)

・『「多極集中」というのは・・・具体的には全国各地に「極」となる都市をたくさん作るという考え方である。・・・人口規模でいうと周辺自治体も含め10万人程度が想定される。・・・人口10万人であれば大半の業種が存続可能となるのだ。この10万人商圏を生活圏とし、中核的な企業や行政機関を中心として雇用を維持しながら、海外マーケットと直接結びつくことで経済的に自立させるのである。』(P.221)

4.今日の気づき

本書では人口減少が引き起こす様々な事象を扱っていますが、考えさせられるのは、著者が「戦略的に縮むための『未来へのトリセツ』」として示した10のステップです。

「戦略的に縮む経営」の骨子を私なりに整理すると、以下のような感じでしょうか。

・総花的な分散をやめて、残す事業に集中投資する
・従業員のスキルアップを図り、労働生産性を高める
・知的財産により製品・サービスの付加価値を高める
・その結果、「より良いものを、それ相応の価格で」顧客に買ってもらえるようにする

また、人数の絶対数が減りつつある若者を孤立させず、交流の機会を増やしてイノベーションを起こすきっかけを作るとか、全国各地に人口10万人以上の規模で経済的に自立可能な「極」になる都市を多数作り、「多極分散」ではなく「多極集中」の日本社会にするといった提言も印象に残りました。

若者にせよ、一般の人々にせよ、一定以上の大きさのコミュニティの中でインタラクティブに活動することが成長の原動力になることを、気づかせてくれる本ですね。

5.本書の目次

序章  人口減少が日本にトドメを刺す前に

第1部  人口減少日本のリアル
 ・革新的ヒット商品が誕生しなくなる(製造業界)
 ・整備士不足で事故を起こしても車が直らない(自動車産業)
 ・IT人材80万人不足で銀行トラブル続出(金融業界)
 ・地方紙・ローカルテレビが消える日(小売業界と「ご当地企業」)
 ・ドライバー不足で10億トンの荷物が運べない(物流業界)
 ・みかんの主力産地が東北になる日(農業と食品メーカー)
 ・30代が減って新築住宅が売れなくなる(住宅業界)
 ・老朽化した道路が直らず放置される(建設業界)
 ・駅が電車に乗るだけの場所ではなくなる(鉄道業界)
 ・赤字は続くよ どこまでも(ローカル線)
 ・地方に住むと水道代が高くつく(生活インフラ)
 ・2030年頃には「患者不足」に陥る(医療業界①)
 ・「開業医は儲かる」という神話の崩壊(医療業界②)
 ・多死社会なのに「寺院消滅」の危機(寺院業界)
 ・会葬者がいなくなり、「直葬」が一般化(葬儀業界)
 ・「ごみ難民」が多発、20キロ通学の小学生が増加(地方公務員)
 ・60代の自衛官が80~90代の命を守る(安全を守る仕事)

第2部  戦略的に縮むための「未来のトリセツ」(10のステップ)