こんにちは、本シェルジュの堀江賢一です。人生100年を生き抜くのに役立つ本をご紹介していきます。

本シェルジュとして本のご紹介をしているメンバーは全員中小企業診断士です。もちろん私も中小企業診断士です。中小企業診断士の本分は「中小企業の経営診断の業務に従事するもの」であり、日本企業の99.7%を占め、GDPの5割近くを稼ぎ出している中小企業を支援することです。

しかし、私は1社1社支援することやセミナーを開いて起業の後押しをすることに疑問を感じていました。なぜなら、膨大な数の中小企業を支援するには上記の手段ではあまりにも非効率だからです。もっと大きな枠組み、仕組みで日本経済に貢献できないものかと。

そんなときに出会ったのが本書でした。最初の数ページをサラッと読んだだけで雷で頭を打たれたような衝撃が全身に走り、もうそこから先は貪るように一気に読みました。

ゴールドマン・サックスのトップアナリストを数十年つづけて、日本経済の研究家であり、そしてご自身も中小企業経営者の著者の主張とは?

どのように感じるかはあなた次第。

本日紹介する書籍

「国運の分岐点」講談社 (2019/9/21) 202 ページ
デービット・アトキンソン (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07XJX4HM1/

本書を選んだ理由〜どんな人が読むべき?〜

中小企業診断士の方、あるいは地方自治体や金融機関で中小企業支援に携わっている方々にぜひ読んでいただきたいです。

本書に書かれているのは、日本という国の経済に対する根源的な問いです。

付箋 本書からの内容抽出です

今の日本はこれまでに経験したことのないような大きな変化に直面しています。人口減少です。2060年までに、日本の生産年齢人口は2015年と比較して3264万人減少します。これは、世界第5位の経済規模を誇るイギリスの就労人口とほぼ同じです。要するに、国一つが消滅してしまうほどの人口減少がすでに始まっているのです(はじめに P.4)

簡単に言えばGDPは「人口×その国の生産性」です。生産性の根源は国民所得ですから、所得水準が同じような国を比較した場合、人口が多いほうがGDPが大きくなるのは当然です。(中略)日本の人口はドイツの1.5倍です。ならば、普通に考えたら同じ先進国としてGDPも1.5倍になっていなければおかしいのですが、現実は1.28倍しかありません。人口とGDPの因果関係の足を引っ張るマイナス要因が日本にあると考えるべきでしょう。(中略)ただ一つだけ、日本とドイツで歴然とした差が開いている要因があります。それが「生産性」です(P.36)

日本経済が成長しない原因を様々な人が議論しています。(中略)この問題はごく単純で、GDPに影響を及ぼす生産年齢人口が増えない、同じくGDPに影響を及ぼす生産性も低迷し続けているからに過ぎないのです(P.39)

人口減少が従来の経済政策に対して様々なかたちで悪さをするということがご理解いただけたかと思います。では人口減少国家の日本において、このような悪さをさせないためにはどうすればいいのか。唯一の効果的な手立ては、賃金を上げることしかありません(P.42)

日本の生産性向上の障害になっているのは、日本企業の99.7%を占めて、これまで日本経済を支え続けていると言われていた357万の中小企業なのです(P.62)

断っておきますが、中小企業そのものが悪いという結論ありきで、強引に結びつけているわけではありません。(中略)日本政府が様々な政策を推し進めてもなかなか日本の生産性が向上しないのは、「中小企業が多すぎる」ことに原因があるのです。違う見方をすれば、大企業の数が足りません(P.76)

企業の規模と密接に関連しているのが「賃金」です。従業員の給料は、企業の規模が大きくなればなるほど高くなって、企業の規模が小さくなればなるほど低くなるのは世界の常識で、それは日本も例外ではありません。(中略)そして、企業の規模は生産性向上と相関関係があることもわかっています。例えば、生産性と高い相関関係がある「輸出」をしようと考えれば、やはり海外拠点や海外対応のため、人材が必要になります。より単価の高い商品を開発して、世の中に確実に送り出すためには、より多くの人材が必要になります。(中略)そのように従業員が増えれば、研修などの人材開発も行えますし、研究開発への投資もより可能になります。このように企業の規模が大きくなれば、それだけ生み出す付加価値も上がって生産性が向上していくというわけです(P.89)

企業の規模を大きくすれば自動的に生産性が上がるという話ではなく、生産性向上のために必要不可欠な賃上げを実行に移せば経済原則として企業の規模の拡大が必要になってくるのです(P.90)

戦後間もない1948年、中小企業の支援を目的として中小企業庁が設置されますが、植民地支配への恐怖を受けて、支援をさらに強化した「救済型」とも言われていた中小企業基本法が1963年に制定されます。これを機に日本の中小企業は手厚い保護のもと、その数を爆発的に増やしていくのです。(中略)日本では中小企業、小規模事業者に対する配慮をすることを基にして、様々な優遇策が存在しています。会社を経営する上では大変ありがたいメリットだらけですが、これを享受するには「中小企業」か「小規模事業者」でないといけません。ということはつまり、この法律によって中小企業、小規模事業者のままでいることにインセンティブが働いているということになります(P.118)

これからの日本は、中小企業の数が大幅に減っていかなければいけない、と講演や対談で主張すると「無責任だ」「反日だ」というお叱りを受けますが、これから日本が直面するシビアな現実を踏まえれば、労働人口を集約させて生産性向上を追求し、そのために必要不可欠な中小企業の統合促進をしないほうがよほど無責任です(P.248)

企業規模の拡大促進に必要不可欠な、最低賃金の引き上げに対して、日本の世論は強い反発を示しました。それを最も声高に叫んでいるのが、中小企業の経営者です。つまり、日本の未来のために変わらなければいけない人々が、最も強硬で最も発言権の強い抵抗勢力になってしまったのです(P.250)

今日の気づき

中小企業診断士として、一体この国に対して何ができるかをずっと考え続けていましたが、答えが出ませんでした。しかし本書は一つの道筋を示してくれたように思います。

筆者は、人口増の時代に増えすぎた中小企業(特に20名以下の企業)とそれを作った中小企業基本法が、人口減の今の時代もなお生き続けていることが問題だと指摘しています。

なぜなら、中小企業は大企業に比べて構造的に生産性が低いからです。この背景にはこの国を成長基調に戻すにはGDPの成長が必要であり、そのためには一人当たりのGDPつまり生産性をあげなければいけないということがあります。そして生産性向上に必要不可欠なのが賃金の上昇で、それを実行するには企業規模の拡大が必要なのです。

しかし、中小企業基本法で中小企業や小規模起業を優遇してしまったがために企業規模を一定以上あげようというインセンティブが働かない。これが日本の生産性が上がらず経済成長できないことの本質であると筆者は説きます。

私が感じていたもやもやがスッキリと晴れた気がしました。

本書の目次

第1章 「低成長のワナ」からいかにして抜け出すか
第2章 日本経済の最大の問題は中小企業
第3章 この国をおかしくした1964年問題
第4章 崩壊しはじめた1964年体制
第5章 人口減少・高齢化で「国益」が変わった!
第6章 国益と中小企業経営者の利益
第7章 中小企業 護送船団方式の終焉第
8章 中国の属国になるという最悪の未来と再生への道

「国運の分岐点」講談社 (2019/9/21) 202 ページ
デービット・アトキンソン (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07XJX4HM1/