本シェルジュの平鹿です。初投稿です。

本日紹介するのは「日本社会のしくみ  雇用・教育・福祉の歴史社会学 」。
ビジネス書と呼ぶには少々堅苦しい内容かもしれませんが、他のビジネス書の読解を数倍面白くしてくれること間違いなしという本です。
良い本は、ものごとを見るときの新しい視点を提供してくれます。この本にもそんな視点がいくつかあります。ここでは、本書を読む中で私にとって少し景色が変わって見えてきたことを3つ紹介しましょう。

1つ目は、アフターコロナ、ウィズコロナ時代の働き方。

本書では、社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」を「しくみ」と呼びます。「しくみ」は、ある集団にはプラスでも別の集団にはマイナスのこともあり、プラスとマイナス含めた社会的合意が成立して初めて「しくみ」として定着します。
今、リモートワーク、ジョブ型雇用などが盛んに議論されていますが、これらは日本の「しくみ」の一部要素にすぎません。一部だけ取り出して変えることができるのか、はたまた新型コロナのインパクトで「しくみ」全体がかわる契機となるのか。今後の推移がより興味深くなります。

2つ目は、日本のデジタル化の遅れ。

本書は、アメリカは「職務の平等」を志向したのに対し、日本は「社員の平等」を志向してきた長い歴史があると説明します。その結果、日本では社内の出世競争が生まれ、社内訓練による技能蓄積が進んだ一方、企業間の人材の流動化は進まず、企業を超えた職務の専門性は磨かれなかったのです。
日本における1970~80年代の摺合せ型製造業での隆盛と失われた20年以降のデジタル化の遅れは、実はコインの表裏なのだということがわかります。
本書には、デジタルという言葉は一度も出てきませんが、デジタルトランスフォーメーションの課題を根っ子から指摘している本といえるかもしれません。

3つ目は、私自身のキャリア。

私は1980年代に銀行の情報システム子会社で社会人生活をスタートしました。ある時、銀行からの出向者が「子会社のベテランより、支店から異動してきたての若手行員の方が仕事ができる」といった話をしているのを耳にし、ショックを受けたことを鮮明に覚えています。
その後、このままで自分のスペシャリストとしての専門性を高められるのか不安を感じ転職をします。
本書を読んで、当時の日本がどのような状況下にあり、その中で子会社はどんな存在だったのか腹落ちがしたのでした。

現代日本がかかえる様々な課題を考える上で、どうやって現在の姿が生まれたのか知っておくことは、決して損のないことでしょう。本書は、企業や雇用を中心にその由来を解き明かしてくれます。

1)本日紹介する書籍

日本社会のしくみ
雇用・教育・福祉の歴史社会学

小熊英二著、601ページ、講談社現代新書(2019/7/20)
https://amzn.to/3gFxvDZ

2)本書を選んだ理由 どんな人が読むべき

日本はどうしてこんなふうになっちゃったのだろうと思っている人。

3)付箋 本書からの内容抽出です

図式的にいうと、日本企業では一つの社内で「タテの移動」はできるが、他の企業に移る「ヨコの移動」はむずかしい。しかし欧米その他の企業では、「ヨコの移動」の方がむしろ簡単 で、「タテの移動」のほうがむずかしい。

どこの社会も格差はある。ただし欧米では、「どの職務か」の格差が意識される。だが日本 では、「どの会社か」の格差が意識される。欧米は「職務の平等」を追求した社会であり、 日本は「社員の平等」を追求した社会だ、といえるかもしれない。

企業が重視するのは、大学や大学院で何を学んだかよりも、どんな職務に配置しても適応 できる潜在能力である。

そしてこのような資格制度は、各社がばらばらに導入したもので、他社との互換性がなかっ た。ある企業で勤続を重ね、たとえば参事二級にのぼりつめたとしても、他社では一文の価値もない。そうであれば、他社に職を求めるといった行動をするはずがないのである。

建造物とは、それを利用する人々の意識を、目に見える形に表したものだ。明治初期の建造物に個室が存在しなかったとしても、各職員の職務が明確化され、各自に個室が必要だという意識が形成されれば、個室がある建物は作られただろう。現在でも「課」や「室」を単位 にした大部屋の建物が使われているのは、「課」や「室」までしか所掌事務を定める必要が ないという意識の反映にほかならない。

現代でもそうだが、漠然とした協力関係で行なわれている業務を、明確な職務に分解する のは容易ではない。それぞれの職務について、内容、困難さ、責任、必要な知識や技能などを分析し、どの職務がどの賃金に値するか格付けする必要がある。これは手間とコストが かかる作業であるうえ、企業内に摩擦を起こしやすい。

これまでも日本の雇用慣行の改革は叫ばれたが、その多くは失敗した。なぜかといえば、新しい合意が作れなかったからである。1990年代以降の「成果主義」も、労働者の合意が得 られないため、士気の低下や離職率の増大を招き、中途半端に終わることが多かった。

4)今日の気づき

欧米では、殆どの職種で従業員は個室か間仕切りのあるコンパートメントで仕事をしているそうです。通信環境が整えばリモートワークに移るのはごく自然なことでしょうね。

一方で、日本は「大部屋主義」。

私の経験でも、特にプロジェクトの立ち上げ時などは、阿吽の呼吸?で担当が決まっていきます。

リモートワークと併せて大部屋主義の働き方を変えていくのか。

はたまた、「空気」伝達オプションつきとか大部屋をサポートする日本流リモートワークツールを開発してしまうかもしれませんね。

5)本書の目次

序章
第1章   日本社会の「三つの生き方」
第2章   日本の働き方、世界の働き方
第3章   歴史のはたらき
第4章  「日本型雇用」の起源
第5章   慣行の形成
第6章   民主化と「社員の平等」
第7章   高度成長と「学歴」
第8章  「一億総中流」から「新たな 二重構造」へ
終章   「社会のしくみ」と「正義」のありか

紹介する書籍

日本社会のしくみ
雇用・教育・福祉の歴史社会学

小熊英二著、601ページ、講談社現代新書(2019/7/20)
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