こんにちは、本シェルジュの松林です。

早いもので大型連休も最終日。いかがお過ごしですか?
今回はビジネス書のカテゴリから少しはみ出し、歴史をふまえて俯瞰的な視点から書かれた本をご紹介します。

著者のジャック・アタリ氏は、1943年アルジェリア生まれ。ユダヤ系フランス人の経済学者・思想家・作家です。
彼は、2007年のサブプライム破綻とその後の世界金融危機の発生を予見した人として、また、近年よく耳にする「ノマド」という言葉の発信源として知られています。

この本では、人類の誕生から現在までを振り返り、教訓となる歴史的事実を明らかにして、これまで市場経済を支配してきた9つの「中心都市」の興亡から、21世紀の世界の歴史を予測しています。前半2章では過去について、後半3章では21世紀に起こりうる「超帝国」「超紛争」「超民主主義」という世界の3つのあり方に言及しています。

352ページとやや大部ですが、現在進行中のグローバル化の行き着く先を考えるうえで、示唆に富んだ本だと感じます。ぜひ一度、お手にとってみてください。

<目次>
1)今日のオススメの一冊
2)付箋
3)今日の気づき
4)本書の目次

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〓 1)今日のオススメの一冊                   〓
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21世紀の歴史-未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ(著)、林 昌宏(訳)
作品社(2008/8/30) 352ページ

今回の登場人物紹介
■松林:移動の合間はカフェで仕事をする一種の「ノマド族」。
■りか:キラキラしたものに目覚め始めた小4。「夢の国」は原宿。
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(5月3日、憲法記念日のニュースを見ながら)
りか:パパ、「憲法」って何?

松林:偉い人が自分に都合のよいことを勝手にできないように、国のしくみなどについて大事なことをまとめたルールブックだよ。

りか:ふーん。じゃあ、「国」って何?

松林:(難問だ…)いい質問だね。ある範囲の土地に、共通のルールで人が暮らしていて、周りが「あそこは何々っていう国だ」と認めているものだよ。

りか:ふーん。じゃあ、「国」はどうしてできたの?

松林:(ええっと…)昔の人類は狩りをしながら放浪していたんだ。そのうち農業が始まって、ある土地にずっと住む人が出てきた。すると、まだ放浪している人たちから自分たちの土地を守るために、お城や軍隊を作る必要が出てきた。そこで税金を集めるようになったのが、国の始まりだと言われているんだ。

りか:へぇー、パパって物知りだね!

松林:ま、まぁね。(「21世紀の歴史」読んどいてよかった…)

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〓 2)付箋 ~本書からの内容抽出です              〓
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■第3章 アメリカ帝国の終焉 より

市場の世界で権力を握る、または「中心都市」となるためには、都市や地域は、その時代におけるコミュニケーションの最大の発信地となり、強力な工業と農業を擁する後背地に恵まれる必要がある。「中心都市」には、<クリエーター階級>のプロジェクトに対し、果敢に投資する金融機関を創設する能力も求められる。こうして、新たなテクノロジーを実現し、その時代にもっとも拡大するであろうサービスを産業化することが可能となる。(p138)

人類の時間は、さらに商業活動に費やされるようになる。資本や商品が国境を越えて行き来することで、世界中の産業はますますグローバル化する。こうして工場は、もっとも総労働コストの安い地域へと、いとも簡単に移転していく。研究開発部門や大企業の本社機能など、もっとも洗練されたサービス業務も、英語が公用語で、今後も公用語であり続ける途上国へ移転していく。(p151)

■第4章 帝国を超える<超帝国>の出現 より

2025年から2035年の間に9番目の市場秩序の形式が消滅すると、世界には指導者が不在となり、相対的に勢力のある者たちによって、世界は混沌とした状態に組織される。
2050年ごろ、市場からの要求が増加し、また、新たなテクノロジーの利用により、世界の秩序は、地球規模となった市場の周辺に、国家を超えて統一される。筆者はこれを<超帝国>と呼ぶ。超帝国の始まりは、公共サービスを、次に民主主義を、さらには政府や国家さえも破壊する。(p194)

超帝国の支配者とは、サーカス型企業や劇団型企業のスターたちである。例えば、サーカス型企業の所有者、ノマドとしての資産を保有する者、金融業や企業の戦略家、保険会社や娯楽産業の経営者、ソフトウェアの設計者、発明者、法律家、金融業者、作家、デザイナー、アーティストといった人々であり、筆者は彼らを<超ノマド>と呼ぶ。(p222)

■第5章 戦争・紛争を超える<超紛争>の発生 より

多極化した世界が破綻し、私設軍隊、海賊、傭兵、テロ組織が確立されると、全体主義政権同士が、いかなる戦争法も仲裁役も認めず、仁義なき殺し合いを始める。
数多くの過ちによって、前途有望であった過去を損なってしまったが、その廃墟のうえに、ローマ帝国が崩壊した後と同様、生きることの喜び、人種を越えた愛、他者への配慮が復活していく。新たな文明はこうしたなかから誕生し、活力を失った国家や疲弊した超帝国の残滓に新たな価値観を吹き込んでいく。(p281)

■第6章 民主主義を超える<超民主主義>の出現 より

すべての人々が人類の持続的生存要件について検討する結果、超帝国や超紛争では持続性のある世界を構築することはできないことを悟る。そこで、領土問題に関する各国のさまざまな要求に対処する、また他者との共存を進め、平穏な暮らしぶりを人々に教示するといった緊急の懸案事項を解決するための政策を立案していくようになる。
最初の頃は、この組織は市場や民主主義と地球規模で共存するが、次第に市場も民主主義も凌駕するようになる。筆者はこれを超民主主義と呼ぶ。(p287)

超民主主義の実現に向けて最前線で活動する人々のことを、筆者は<トランスヒューマン>と呼ぶ。彼らは収益にとらわれない、そして収益が最終目的ではない<調和重視企業>で活躍している。トランスヒューマンとは、利他主義者であり、世界市民である。彼らは<ノマド>であると同時に定住民でもあり、法に対して平等な存在であり、隣人に対する義務に関しても同様である。(p288)

トランスヒューマンは、全員が競争しあう市場経済と並行して利他主義経済を作り出す。利他主義経済とは、無料奉仕、お互いの寄付行為、公共サービス、公益からなる経済である。筆者はこれを調和重視と呼ぶが、調和重視が希少性の法則に縛られることはない。つまり、知識を与えることは、知識を失うことではないのと同様である。調和重視により、娯楽・医療・教育・人間関係などの分野で、本当の意味での無料サービスが誕生し、こうしたサービスを交換し合うことが可能となる。(p291)

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〓 3)今日の気づき                       〓
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著者は、21世紀は帝国を超える「超帝国」の出現、従来の戦争・紛争を超える「超紛争」の発生、民主主義を超える「超民主主義」の出現による新秩序の形成、というストーリーで進むと言います。
また、人類は自滅する前に、世界規模の共同体としてのインテリジェンスを作り出すことができると言い、利他主義・調和重視の萌芽としてマイクロファイナンスやウィキペディアを挙げていました。

こうした大きな流れから見ると、「労働の対価は世界中で同じになっていく」という当然の認識に対してブラック云々と非難する人や、日本国憲法改正の目的をさて置いて改正手続の緩和に拘泥する人を、非常に矮小と感じます。

著者の「日本が現在まで『中心都市』になることができなかった理由は、これまで日本が、歴史の法則をきちんと守ってこなかったからである」という言葉を重く受け止めつつ、子どもたちの世代がより幸せになれるよう、できることをやっていこうと思いました。

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〓 4)本書の目次                        〓
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序 文 21世紀の歴史を概観する
第1章 人類が、市場を発明するまでの長い歴史
第2章 資本主義は、いかなる歴史を作ってきたのか?
第3章 アメリカ帝国の終焉
第4章 帝国を超える<超帝国>の出現-21世紀に押し寄せる第一波
第5章 戦争・紛争を超える<超紛争>の発生-21世紀に押し寄せる第二波
第6章 民主主義を超える<超民主主義>の出現-21世紀に押し寄せる第三波
付 論 フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?

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21世紀の歴史-未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ(著)、林 昌宏(訳)
作品社(2008/8/30) 352ページ